昼間に出現した私の狼男 後半
私に会いに来たのではなかった狼男

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はじめてキスをした日から数日後、また狼男と公園をぶらぶらしたあと、ベンチに座りました。
あたりが暗くなると、私はまた狼男とキスをしました。
「もっといろんなことしていいのよ」
と私は言いました。
「そんなこと言ってはダメだよ。もう帰ろう」
狼男はもう一度私にそっと口づけをすると立ち上がって帰って行きました。
私がショッキングな場面を見たのは更にその数日後でした。
兄は相変わらず単身赴任中です。
父と母がまた、家を空けた日がありました。
私はお義姉さんの作ってくれたお弁当を持参して、お義姉さんに見送られて学校へ行きました。
しかし、お昼前にちょっと具合が悪くなってしまいました。
風邪を引いていたのに、もう寒い季節なのにアイスクリームを食べたり、このところミニスカートの制服のまま公園のベンチに薄暗くなるまで座っていたりしたことがいけなかったんだと思います。
保健室に行って熱をはかってもらうと38度近くありました。
私は早退しなさいと先生に言われました。
お義姉さんにせっかく早起きしてもらってお弁当作ってもらったのになあ、悪いことしちゃった。おうち帰って食べようと思いながら私は家に帰りました。
途中で「ほんとうに悪かったなあ。こんな早く帰るならお弁当じゃなくてよかったのになあ。しかもお母さんに自分で作りなさいって言われてたのに、内緒よって言って、お義姉さんが作ってくれたのにさ」と思い、何かお義姉さんにお土産を買おうと思いました。
私は熱の体でふうふう言いながらも、お義姉さんの好きなケーキのお店に寄って、でもケーキが思ったより高かったので、お小遣いが足らずに一個だけ買って帰りました。
家につくとお義姉さんを脅かそうと考え、私はそっと鍵を開けました。
音を立てないようにそうっとドアを開け、そうっとうちに入りました。
入った途端に何か声が聞こえました。テレビかな?
足元をふと見ると、見たことのない男ものの靴があります。
子供だった私にも嫌な予感がしました。
耳を澄ますと、テレビだと思った声は「ああっ・・ああ」と言っています。
私は凍り付きました。
ケーキの箱やカバンを玄関に置くと、音を立てずに、一歩、二歩、私は廊下を歩き、居間に近づいてみました。
居間のドアはガラス張りになっています。
私はドアのガラス越しに居間を覗きました。
居間の絨毯の上には、何か肌色の物体が重なっているのが見えました。
人間二人のようです。男の人と女の人のようです。
よく見ると男の人が女の人に覆いかぶさっているようです。
きれいな女の人の足が男の人のたくましい腕に抱えられて持ち上げられています。
男の人の筋肉質な美しい体が前後に動いています。
「ああ・・・ああっ」
女の人の聞いたこともない声です。
それがお義姉さんの声だとは私にはなかなかわかりませんでした。
お義姉さんのきれいな細い腕が男の人の背中にしがみついています。
男の人は体というか、腰を前後に動かしています。
二人とも顔がよく見えません。
男の人の腰が激しく動きます。
お義姉さんの聞いたことのない声も激しくなっています。
私は目を離すことができませんでした。
これってこんなに激しいものなんだ。
熱のせいか、私の額には汗がじわじわ出てくるのがわかりました。
私はフラッとよろけました。
よろけたはずみに居間のドアにぶつかってしまいました。
二人の男女がこっちを見ました。
お義姉さんと、狼男でした。
狼男の切れ長の美しい目が、大きく見開かれ私の目を見つめていました。
お義姉さんが私の名前を叫びました。
私は走って階段を駆け上がりました。私は自分の部屋に鍵をかけてベッドにもぐりこみました。
狼男が私に姿を見せに来たと思ったあの夜、本当は誰に会いに来ていたのか・・・。
*****
次の日、狼男がお義姉さんのストーカーだったとききました。
お義姉さんがお兄ちゃんと結婚する直前に合コンで会ったけれど、名前も覚えていない男だったとききました。
結婚後もときどき、家の近所にこの男が現れてつきまとわれていたとお義姉さんは言いました。
でも今まで家族に言えなかったとお義姉さんは言いました。
その告白は、翌日、父と母が家に帰ってきてからきいたのです。お義姉さんが父と母の二人の顔をみたとたんに泣き出してからききました。
父と母が帰ってくる前は私と二人でいてもお義姉さんはそんなそぶり見せなかったのに。
父と母が帰るまでは、狼男とのことについては、私もお義姉さんもさけて話題にしませんでした。
何より、私の熱が39度近くまで上がってしまい、それどころでもなかったし。
でもお義姉さんは別に辛そうでも悲しそうでもなく、ただときおりぼんやりするくらいで、それ以外は普段通りに私に接していたのに。
なのに、父と母の顔を見ると泣き出して、
「怖かったです!昨日、ストーカーがこの家にやってきて・・・」
とお義姉さんは訴えたのでした。
そして、そのとき私は間違いなくお義姉さんは、嘘を言っていると思いました。
なぜ?
なぜわざわざ父と母にそんなウソを言うの?なんなら、何も言わなくてもいいのではないか。
なぜ?私に見られたから?
私が父と母に言いつけると思ったから?
だから先んじて嘘の白状したの?
「ストーカーには何もされなかったのですが、すぐに去って行ったのですが、私、もう怖くて怖くて」
とお義姉さんは父と母に泣きながら言いました。
いつか子供のころ私が夜中、庭に出ていたときにお義姉さんは父と母に言いつけなかったでしょ。
そのとき私はお義姉さんを信じていたから、お父さんたちに言いつけないでくれると思っていたから安心していたの。
でもお義姉さんは私を信じていなかったの?
私が父や母に言いつけると思っていたの?
それとも私をも騙せると思って嘘を?
そして、お義姉さんは父と母に連れられて近所の交番にストーカーの被害を訴えに行きました。
私は置いてけぼりでした。
そのままだと、狼男が何かピンチに陥りそうなので止めたかったけど、でも、熱がひどくなってしまったことと、何よりもどう考えてもお義姉さんのほうが私よりも狼男と親しそうだったので、何か考えがあるのかと思い、私は何も言わなかったのです。
やがて交番から帰ってくると母はベッドに寝ている私に言いました。
「いーい?あんたも気をつけなさいよ。もし近所で、背の低い坊主頭の眼鏡をかけた男を見たら、すぐに言うのよ」
「え?背の低い?坊主頭?眼鏡をかけた?」
と、私は母に聞き返しました。
「そうよ。そういう男につけ狙われているんですって。怖いわねえ。」
と母は言いました。
それっきりあのバスで狼男を見かけることはなかったし、狼男がうちに来ることも二度とありませんでした。狼男が警察に捕まることもありませんでした。
お義姉さんは相変わらず優しく私たちは仲良しです。
そして、私は年相応なボーイフレンドと付き合うようになりました。
-------------終わり------------------
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