昼間に出現した私の狼男 前半

狼男に接近


片足立てて黒いシャツをまくりかけている
私が夢見るちょっとイタイ少女だったころの話です。


狼男が街に出没するという噂が立ちました。

大人たちが話しているのを聞いてしまいました。

学校に行くと友達も話をしていました。

「うちの近所のおじさんが見かけたんだって。夜、庭で物音がしたら見にいったら逃げて行ったって。」

どんな格好だったの?と聞くと、

「よく見えなかったけど、二本足で立っていて、すごく背が高いのはわかったって。逃げるときに毛がふさふさ風に揺れたのと大きなとがった耳が揺れたのを見たって」
と友達は言ってました。



私は学校の授業の絵の時間に狼男を描いてみました。

月夜の夜に真っ暗な街の中を走る狼男の絵でした。

毛をなびかせ、とがった三角の耳と白いするどい牙を持った狼男を描きました。


でも、狼男って何してるのかしら。

誰かを殺したり、何かを盗んでいるわけでもないのに夜、街をうろうろして何をしているのかしら。


私はまだ見ぬ狼男に夢中になりました。

それまで、私は幽霊やお化けが大嫌いで、闇がとても怖くて、夜暗くなったら一歩も外に出ることができないような臆病ものでした。

お祭りや花火大会のときでさえ、家族と出歩いていてさえ、暗闇が怖かったのです。


しかし、狼男に会いたくなってしまった私は違いました。

あるとき、真夜中に目が覚め、私は寝間着の上にジャンパーを着て、静かに玄関のドアを開けました。

そして一人でこっそりと庭に出てみました。

月夜でした。

あたりはシーンとして、自分の家もご近所の家も街も死んだように眠っていました。


でも全然、怖くありませんでした。


私は狼男の出現を待ちました。

門から道路を見つめ続けました。

10分ほど一人で立っていましたが狼男も誰も通る気配はありません。

あーあ。

がっかりして、私は庭に座り込みました。暗くて足元がよく見えなかったので、そこらへんに出しっぱなしになっていた植木鉢の上に座ってしまいました。

「わあ!」
声を出してバランスを崩して私は倒れてしまいました。

しまった。

家の中から小さな音がしました。

私はゆっくり静かに立ち上がると、抜き足差し足で玄関に向かいました。


家の中から、階段を下りてくる音がきこえます。

まずいわ!誰かを起こしちゃった。

私が玄関の前で動きを止めていると、ガチャっという音がしてドアのノブが回りました。

あーあ。見つかる。


ドアを開けたのはお義姉さんでした。

お義姉さんは私が玄関の外に突っ立ているのを見ると、ギョっとした顔をしました。

お義姉さんは私だとわかると、溜息をつき、笑いました。

「何してるの?だめでしょう?」
とお義姉さんはヒソヒソ声で言いました。


見つかったのがお義姉さんでよかった。
お母さんやお父さんやお兄ちゃんだったらもっと怒られていたわ。


お義姉さんは次の朝の食卓でも私のことを家族に言いつけないでいてくれました。




そんなことがあったことも狼男のことも忘れたころ、私は夜遅くまで自分の部屋で試験勉強をしていました。


「あーもう嫌!ちょっと息抜きしよ」

私は一階に降りると冷蔵庫からジュースを出して飲みました。


その時に台所の窓の向こうに物陰が動いたような気がしました。

そちら側は狭い裏庭です。

私は昔のような怖がりではもうありませんでした。

特に今はお兄ちゃんが単身赴任でこの家にずっといません。
父と母も旅行に行っていて、この夜はお義姉さんと私だけでした。

お義姉さんという弱い女性を私が守ってやるくらいの勢いでした。


「泥棒!!」

私はジュースをそこに置くと、すぐにサンダルをつっかけ、お勝手口を力強く開けました。

私が左右を見渡すと、垣根の葉っぱをガサガサと音をさせて向こうに走ってゆく人影が見えました。


「どろぼ・・・・」と叫ぼうとして私は声を止めました。


一瞬、家の壁についていた灯りがその人影の横顔を照らしたのです。


髪をふさふささせたシャープな男の横顔が浮かびました。

とがった三角の耳・・・はないけれど、細いとがったような耳が髪の毛の間から見えている。


「これが狼男だ!」

私の頭にはなぜか狼男のことが突然よみがえりました。

これこそ狼男だとなぜか私はすぐに思いました。

私は狼男を追いました。


狼男は裏庭から家の壁を曲がると表へ回って行きました。

「待って・・・」
私が声をかけても振り向かずに狼男はそのまま門から走り去って行きました。


私は胸をドキドキさせながら狼男の去ったほうをずうっと見ていました。

お義姉さんには二人きりなのにそんな危ないマネしないでとあとで怒られました。



次に私が狼男に会ったのは家の近所でした。

なんと学校帰りのバスの中で私は狼男を見つけました。

私がクラスメイトの彼氏候補の男の子と満員のバスに乗っているときでした。


停留所で人が一度たくさん降りて、またたくさんの違う人が乗車してくる合い間にバスの後ろの座席のほうが一瞬、よく見えました。


そこに狼男が座っていたのでした。

「ああっ!」私は声をあげました。

「何?知り合い?」
ボーイフレンドは私にききました。

またあっという間にバスの中は人で埋まりました。

私は満員の人をかきわけて狼男のそばまで行きました。


「どこゆくんだよ・・」
ボーイフレンドがそういうのも聞かずにに私は狼男のそばまで行きました。

狼男は驚いた顔をしていました。

私はにっこり笑いました。

「会いたかったわ」


そのあと、狼男は私を無視して、次の停留所で下りるとどんどん歩いて行きました。

しかし、私とボーイフレンドがいつまでもついてくるのでやがて狼男は立ち止まりました。


正確には、「待って」と叫びながら狼男を追う私と、それを止めようとするボーイフレンドとが、大騒ぎしながら狼男の後ろをついて行った形でした。


狼男はあきらめて立ち止まって私たちを振り返りました。
「なんか人違いしてるみたいだけど?」

そう狼男は私に言いました。

「いいのよ。心配しなくても。あのときは私に会いに来てくれたんだと思っているから」
と私は言いました。


狼男は非常に困ったような、ドン引きしたような顔をして苦笑いしながら一歩後ずさりました。


ちょうど、そこにはアイスクリームショップがありました。


狼男は私とボーイフレンドにアイスクリームを買ってくれました。

そして
「これで勘弁してくれるとありがたいなあ?」
と私に言いました。


「どこの学校?何年生?」などと、たわいもないことを聞かれながら、私たちは立ったままアイスクリームを食べました。


狼男の鋭い目つき、豊かな髪の毛からのぞくとがったような耳、ふわふわのゆるくパーマのかかった髪を見つめながら私はおしゃべりをしました。


そして狼男があの停留所でいつも降りるというこを確認したあと私たちはその日は別れました。
「また会いましょうね!」
と私は背の高い狼男の広い背中に声をかけました。



その後も何日か、一人で私はその停留所で狼男の出現を待ちました。

待って何日目かにやっと狼男が現れました。

狼男は私を見つけると、驚いた顔をしたあと、とても困った表情をしながらバスを降りてきました。

とても迷惑そうな顔をしていました。

でもそんなの全然、私はかまいませんでした。
私はにっこり笑って狼男を迎えました。


「今日は一人か。アイスクリーム代、一人分浮くな」
と狼男は言いました。


それからもときどき、停留所で狼男を待ち構えて私はアイスクリームをごちそうになったり、近くの公園のベンチで座って話しをしました。


いつも私はきれいな狼男のシャープなあごやするどい目に見とれながらおしゃべりをしていました。


話題は昨日みたテレビの話とか、部活の話とか、何の食べ物が好きだとか。
私は狼男の名前もきかなかったし、詳しいプライベートのこともききませんでした。

私はそれでよかったのです。だって相手は狼男なんですから。

そして一時間くらい話すと、もう帰りなさいと言って、狼男はベンチを立ち上がり去って行きました。


あるとき、私がいつまでも帰るのを渋り、あたりが暗くなってしまったことがありました。
狼男が帰ろうと立ち上がっても、私は腕をひっぱってもう一度ベンチに座らせました。


「キスしてくれたら帰る。」
と私は言いました。

「しないよ」
と狼男は言いました。

「じゃあ帰らないわよ」


狼男は私にそうっとキスをしてくれました。
かすかに唇にふれるだけの口づけでした。


次の日、私は一日中、ぼーっとしていました。



------続き → 後半 --------------


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