我慢できない①
妄想セックス

H坂が目覚めて、左を見ると裸の女の背中があった。
なでらかな肩。きれいに湾曲した線。
「遥・・・」
H坂は女の背中を後ろから抱きしめた。
女はゆっくり振り向いた。
「遥じゃないわよ」
ねむそうに女が言った。
「いや!すまない!ごめんなさい!」
H坂は慌てて謝った。
『遥』とはH坂が好きな女の名前だった。
H坂はさっきまで、遥の夢を見てたし、この隣に寝ている女性の後姿がとても、遥に似ていたのだ。
昨夜、思わず、後ろ姿に声をかけてしまった。
若者の街からほんの少し歩いたところに、この時代、まだ、個人的ご商売をしている女性が立っているなんてびっくりした。
背格好、髪型、体つきが遥によく似ていた。
酔っぱらっていたH坂は、正直に「オレの好きな女に後姿が似ているんだ。」と言って女を誘った。
再び、女が向こうをむくと、H坂は後ろから女を抱えた。
抱えられながら女は「遥さんとやらだと思って、やってみる?」と言った。
「何言ってる・・・・・」とH坂は言った。
「片思いの遥ちゃん。」
「そんなことまで話した?」
女は起き上がって後ろ向きで四つん這いになった。
H坂は背中から女の胸をつかんだ。胸をもみながらなでた。
胸をいじりながら、うなじや背中にキスをした。
そのまま、後ろにさがっていって、尻にキスしながら、足の間から女の股関を触った。
口には出さなかったけれど、H坂は心の中で「遥・・」と呼びながら、行為を続けた。
「もっと上にあげて」
H坂は女の尻の肉を上にもちあげた。
女は腕をおりまげ、頭を下につけ、下半身をできるだけ上につきあげた。
H坂は後ろから女性器を舐めた。
膣の中に舌を入れながら舐めまわし、片手で突起の部分をなでた。
女は声をあげた。
女の声も遥の声に似ているような気がしてくる。
「遥・・おまえは俺にこんなことまでさせて・・・」
H坂の興奮は高まってくる。
やがてH坂は、顔を上げると、女の中に挿入した。
腰を動かしながら、自分の動きに合わせて揺れる女の体をH坂は見つめた。
この尻、腰、背中、乳房が遥だと思った。
「あ・・・あ・・・・・」
H坂の動きが激しくなってくると女の声も激しくなってくる。
「ああ! ああ~」
遥が俺に抱かれて乱れている。
「遥・・・遥・・・」H坂は心の中で遥を呼びつづけた。
H坂は興奮して早めに終わってしまった。
行為が終わると報酬を受け取って、女性は帰って行った。
その後、H坂は遥に会うと、とても恥ずかしくてなんだか気まずかった。
「H坂さんおはようございます。
ねえ昨日のプロ野球見た?」
会ったとたんに、遥は元気に話しはじめるが、H坂はその顔をまっすぐ見られなかった。
「今朝のオレの行為を知ったら、二度と、口をきいてくれないだろうな」
とH坂は思った。
私を想像してそんなことするなんて気持ち悪いというだろう。
相手の女性に失礼だと言って怒るだろう。
自分に直接、せまる勇気がなくてそんなことするなんてあきれるだろう。
だいたい、お金で女性を買うなんて許さないだろう。
H坂は少し、自分が嫌になった。
しかし仕方なかった。
遥に対する気持ちをどこかに吐き出さないと耐えられなかった。
遥もH坂のことを好きなようだった。
しかしH坂は遥に気持ちを伝えることはできない。
H坂は今、妻とは離婚調停中だ。
別居生活は二年を超え、夫婦関係はとうに破たんしているし、離婚にはお互い同意しているので、たぶん、今、H坂が遥と付き合い始めたとしても、不貞行為にはあたらないと思う。
しかし、そういう問題じゃない。
もしも、たとえ、離婚問題に明日決着がついたとしても、こんな自分が遥に気持ちを伝えることははばかられた。
一度結婚したことがあり、しかももうそろそろ中年といってもいい年の自分が、若い新品の遥と付き合うのは、いけないことだと思った。
もし付き合ったとしても、H坂は 当分、結婚という気にはならないと思うし、そうしたら遥がかわいそうだ。
遥には、ちゃんと誰かと結婚を前提とした付き合いをして、幸せになってもらいたいとH坂は思っていた。
H坂は遥のことはあきらめて生きてゆこうと思うのだが、しかし、そう思うたびに遥が近づいてきてしまうので、自分の気持ちをバッサリと断ち切ることができなくなってしまう。
痩せているが甘党のH坂のために遥はよく、家でお菓子を焼いてもってきた。
「他の人には内緒ね。お付き合いで食べてもらうより、喜んでくれる人に食べてもらいたいんだもん」
一人暮らしのH坂がここ最近口にする唯一の女性の手料理は、遥の作るケーキやクッキーだけだった。
H坂が盲腸で入院したときには、遥は仕事が終わってから随分遅い時間にお見舞いにきたりした。
「あれ?面会時間、終わってなかった?」とH坂が言うと、
「えへ。愛人ですって言って入ってきちゃった」と遥は言った。
冗談でも、こういうドキリとすることを口にすることもあった。
こんな風にちょいちょい遥が自分に好意を示すので、ついついH坂は、生ぬるい関係を続けてしまう。
なまぬるいというのは、愛の告白もしないし、デートをしたりすることはないが、
H坂と遥は家の方角が同じなので、毎週金曜日にH坂が遥を車に乗せて送ってゆくのがお決まりになってしまっていた。
金曜日はいつも帰りが遅くなる。
三か月ほど前に、初めて「乗ってゆくか?」とH坂が遥に声をけけて家まで乗せてやった。
それ以来、なんだか、いつも金曜日は一緒に車で帰ることになったのだった。
ときどきは、途中で二人で食事をすることもあった。
帰る道の途中で、美味しい洋食屋を見つけたので、そこに寄って、夕飯を食べたら、コーヒーを飲んで少し話すだけで、またすぐ車に乗って帰るだけだが。
その程度のぬるい関係を続けていた。
本音を言えば、今朝ほどのように、H坂は遥を抱きたかったが、こういうぬるいことをしている時間も楽しかった。
抱くことはできなくても、せめて車の中の二人きりの空間で、たくさん話をして、時間をともにすることがH坂の慰めになっていた。
ある金曜日、H坂と遥が駐車場で車に乗ろうとしていると、H田林が通りかかった。
H田林は、若い男だ。
H田林はH坂に向かって言った。
「H坂さん。付き合う気もないのに遥を拘束するのはやめてくださいよ。」
H田林は酔っていたようだった。
「遥にとっても他の男にとっても迷惑です」
それだけ言うとH田林は去っていった。
「?なんだ?あの酔っ払い!」とH坂は言った。
「何言ってんだ。あいつ」
「あー」と遥は言った。
「何?」とH坂。
「H田林さんの休みって金曜日で。何回か金曜日の夜に遊びに行こうって誘われたの」
遥は話し始めた。
「でもいつも断ってたら、なんでいつもダメ?って話になって・・・」
遥ははずかしそうに続けた。
「金曜日はいつもH坂さんに家まで送ってもらうからダメ・・・・って言っちゃったの」
「ふーん」
H坂は言った。
「あのなあ別に無理して俺に送られなくってもいいんだぞ」
H坂は、H田林に言われた『拘束する』という言葉に心がズキっとした。
確かに、付き合う気もないのに、遥と離れたくなくて、送ってゆくと親切ぶったことを言って、本当は自分が遥と一緒にいたいだけのくせに。
毎週、金曜日に約1時間・・・・飯を食べたら2時間近く・・・・これって確かに遥の時間を随分、拘束しているのかもしれない。
「金曜日、デートに行きたかったら行きゃいいじゃないか。別に、オレは拘束するつもりはないよ」
とH坂は言った。
「違う」
遥は言った。
「拘束なんて・・・・。私がそんなこと言ったんじゃないわ。H田林さんが今、勝手に言ってるだけでしょ?
それに・・・・・それって・・・・H坂さんが私を具体的に拘束しているんじゃなくて・・・・・」
少し間をあけて遥が言った。
「あの人が言ってるのって、きっと、私の心が拘束されちゃっているっていう意味でしょ?」
H坂は自分の顔が赤くなるのがわかった。
・・・・・・・・・・続く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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