殺されたかった女①

緑色のビキニの40女


緑のビキニで細い腰を曲げている


ジャム山が、人々で賑わっている区民プールのプールサイドで会った麦わら帽子の女は、まずこう言った。
「私に協力してくださるというのはあなたですか?」

ジャム山は、ネットの闇サイトを通じて知り合った女と、区民プールのプールサイドで待ち合わせをしていた。
目印は、大きな麦わら帽子と緑色のビキニだと、女は言っていた。

女は40歳過ぎだときいていたが、もっと若く見えるな、とジャム山は思った。
カンカン照りのこの日は、強すぎる太陽の日差しが、女の身体の染みも、たるみも、老いも隠していた。

「こんなところで打ち合わせなんておかしいでしょ?
ごめんなさいね」
と女は言った。

そう、ジャム山と女がこれからしようとしている”暗い”打ち合わせの場所としては、あまりに明るすぎる、平和過ぎる、ふさわしくない場所だった。

女は闇サイトに、『自分の自殺を手伝ってくれる人を募集する』と書いたのだった。
お礼は100万円。
ジャム山がそれに乗ったのだった。

闇サイトでは、他にもこの提案に乗り気だった者はいたが、女は自分と同じ区に住むというジャム山を選んだ。


賑わう区民プールのプールサイドで、麦わら帽子の女は、恥ずかしそうに言った。
「この恰好も驚いたでしょ?
すいません、いい年して。
でも、私はいつもこれか、同じ形のピンク色の水着なの」

混雑しているプールでも一目でわかるように、わざわざ鮮やかのグリーンのビキニを選んだのかと思ったら、この40女はいつもこの恰好のようだった。

「いや、とてもお似合いですよ」
と、ジャム山は言った。

お世辞もあったが、しかし、その年でこんな恰好をするその開けっぴろげさがなんだか清々しいし、実際この女には似合っていた。

女は、とても自殺を考えているような人には見えなかった。
この女には、”暗さ”が微塵もなかった。

「姫川零子と申します。
離婚して独り身です。
もう成人した子供が関西の方に住んでいます。
あ・・・・・・
あなたの本名や素性は名乗らなくっていいですよ、ジャム山さん」
と、鮮やかな緑色のビキニの姫川零子は言った。

そして、本題に移って行った。

「私は、若い頃から多額の生命保険に入っています。
上手いこと、事故死をしたように装って、なんとか自分の子供にお金を残したいんです。
実は、ずっと景気がよかったのですが、ここに来て商売に失敗しまして、商売をたたんでしまいましたので」

ジャム山は、質問した。
「借金があるんですか?」

「借金はありません。
ただ、もう収入がないのです」

「借金がないのに、どうして死ぬ必要あるんですか?
他の商売をしたらいいだけなのに」

ジャム山は、淡々と闇サイトの依頼者の自殺を手伝うつもりだった。
人生相談なんてするつもりはなかった。
が、綺麗なまだ若いこの女が自殺するのはもったいないような気がした。


緑のビキニのブラジャー持ち上げている


炎天下の中の明るい区民プールにはそぐわない話が続いた。

ジャム山はもうひとつたずねた。
「事故死を装うって言いましたが?
普通の自殺でも保険はおりるところが多いんじゃないかな?
免責期間は過ぎてるんじゃないんですか?」

零子は答えた。
「私が自殺をしたら、残された子供や私の親が悲しみます。
それは避けたいのです。
私は楽しく暮らしていて、ある日突然、ちょっとした思わぬミスか何かで事故って死んでしまったと思わせたいのです。
『あ~あ~、母さんバッカだな~』みたいな感じで。
どんな死に方がいいかしら?
あなたには、その手伝いをしていただきたいのです」

零子のこの言葉の後半は、少しワクワクしているように見えた。
楽しい企画を立てているような感じだった。

不思議な女だ、とジャム山は思った。
そして、本気なんだろうか?と考えた。

ジャム山は今まで自殺を手伝ったことはなかったが、闇サイトを通じていくつかのヤバい仕事はしていた。
その依頼人たちは、みんな暗い顔、もしくは必死な顔、もしくは恐ろしい表情をしていた。
この零子は少し雰囲気が違いすぎる、とジャム山は思った。


この日は、大まかな取り決めをして別れた。

●ジャム山は零子の事故死のシナリオを作り、演出、ヘルプをすること。

事故死の条件について
・死ぬのは、どこか野外。
・そこで零子が死んでもおかしくない状況
・他人に迷惑をかけない死に方。
・なるべく痛くない方法。
・なるべく苦しくない方法

●ジャム山への金の支払いは、シナリオを見せてもらった段階で、現金で50万支払う。
決行する日に、残り現金50万円を手渡す。


話がここまで終わると、零子は、脇に置いてあったポーチを掴んで立ち上がった。
「私は、今日から身辺の整理を始めます。
あなたは、シナリオ案が出来たら、またこのプールに来てください。
私は、毎週水曜日のこの時間にはこのプールにいます。
これも、私がお気楽に元気に生活をエンジョイしていたという演出のためなんで」

そこで、慌てて零子は座りなおした。
「そうだわ」

零子は、ポーチを開いた。
そして、
「これは今日の交通費と、いわば手付け金です」
と言って、ポーチから出した一万円をジャム山に渡した。


緑色のビキニで横たわっている



零子の住むマンションの隣にある小さな一軒家に住む高岸は、勤めから帰って、飯を食べていた。

高岸は、急死した叔父の残してくれた、この小さな一軒家に住んでいた。

叔父の死は少し不思議だった。
北海道に仕事で出張していたときに、ホテルで病死したのだった。

高岸の祖父母も、父母も亡くなっていたし、独身の叔父の身内は、甥である高岸と高岸の兄だけだった。

東京に住む高岸と兄は、北海道に飛んだ。

叔父が亡くなったホテルには刑事さんがいた。
高齢の叔父には持病もあったし、突然亡くなることもありえなくはなかったが、警察は一応事件性を考えているようだった。

高岸と兄は刑事に色々、質問された。

が、様々の調査の結果、結局、事件性はないと結論づけられて、高岸と兄は叔父の遺体と共に東京に戻った。

叔父は、生涯独り者だったので、近年は、甥である高岸と、高岸兄の家族と過ごすのが一番の楽しみで、とても可愛がってくれていた。
叔父の死により、高岸はこの小さな一軒家をもらい、高岸の兄は叔父の仕事場の土地と建物をもらった。

高岸は、その話を零子にしたことがあった。
零子を初めて抱いた日だった。

ベッドでそんな話をした。
「子供のいなかったが裕福だった叔父。
そしてあまり資産がなくて早めに両親が死んでしまった僕たち兄弟。
叔父が、僕と兄のためにわざと早めに亡くなって、遺産をプレゼントしてくれたような気がするんだ」





次回に続く
殺されたかった女②    




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2Comments

ななし  

No title

なんだかタイトルからすると、悲しい物語のような…

2021/06/25 (Fri) 15:22 | EDIT | REPLY |   
huugetu

huugetu  

Re: No title

悲しいかもしれんが計画をしてたヤツにとっては痛快

2021/06/25 (Fri) 16:47 | EDIT | REPLY |   

コメント

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