生き残った三軍選手たち㉓
悩める若き女独裁者

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
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(場面・コンプライアンス研修合宿所)
ニセドウリョウさんが国際空港ではしゃいでいる姿を見た三人のシステム部員たちは、布団の上で話し合った。
「ウソだろ?
みんなをこんなに心配させておいて海外旅行?」
「ちょと待て。
この映像おかしくないか?
ドウリョウ、サングラスなんかかけるキャラか?
ドウリョウが『イエーイ!』なんて言うか?」
「いや、結構言いますよ。
言わなさそうなんだけど、酔ったときとかテンパったときとか、急に子供みたいになりますよ、あの人」
「まあドウリョウが逃げ出したくなる気もわからないでもない。
仕事もいつもなんかつまらなそうだったし。
そこへ来て、何をやらかしたのか知らないけど、給料を減額されたり、突然一か月の研修合宿に叩きこまれたりしたら」
朝になって三人は、朝食の席の食堂で、システム部員の皆にこのことを報告した。
食堂にはパソコンがあり、桜田さんの家とも、システム部長の家ともオンラインがつながっていた。
桜田さんの家には、オズボーン、システム女子、総務部長、秘書さんが泊まっていた。
管理人さん一家は、忙しく皆に朝ご飯を提供する作業に追われながらも、耳をそばだてて話をきいていた。
食堂に同席していたコンプライアンス研修合宿の参加者たちも、システム部員たちの話に耳を傾けていた。
インスタグラムの他にも、システム部員たちはそれぞれ、色々な情報を手に入れていたことがわかった。
「はい!」
手を挙げた1人の部員が発言した。
「私のところには、あの日の朝、合宿所付近で変なことがあったという情報が来ました。
いつもは静かな田舎なのに、早朝、バタバタと車に大勢で乗り込んでいく人たちを見たっていうんです。
この情報をくれた人は、この合宿所の近所に住んでいる人です。
私はすぐにこの人に会いに行って話を聞いてこようと思います」
他のシステム部員からの報告もあった。
「僕のツイッターには、謎のフリーライターの情報が来ました。
この情報をくれた人は、うちの研究所のそばに住んでいる人です。
フリーライターの顔をご近所で何回か見かけたことがあるそうです」
そして、パソコンの画面のオズボーンたちに向かって言った。
「そっちにいるメンバーの誰か、この目撃者に会いに行って話をきいてきてください」
食堂のみんなはどよめいた。
「おおっ。どんどん情報入るねえ!」
コンプライアンス研修の研修生さんたちも、管理人さん一家も手を止めて、喜びの声をあげた。
「おお!」
でも、オンラインでこの報告を聞いていたシステム女子はガッカリした。
システム女子は言った。
「ああん!
そうじゃないんだってば。
研究所のそばでは、フリーライターには私自身、何回も会っているのよ。
そうでなくって、合宿所方面であいつを見かけた情報が欲しかったのに~」
オズボーンは、
「いやいや、フリーライターの素性を調べることは大事だろ。
でもさ、それよりも・・・・・・」
と言ったあと、感心したようにどうでもいいことを続けた。
本業は三流漫画家のオズボーンだった。
「システム女子ちゃん、絵がうまかったんだね?
君の描いたあの似顔絵が、とってもフリーライターの特徴をとらえていたってことだろ?
すげえなあ!
君の観察力というか、画力というか。
僕だったら無理だったかも」
有益な情報の他に、このSNS作戦には、曖昧だったり適当だったりな情報もたくさん来た。
『この人、テレビの”100人クイズの壁”に出てた人じゃない?』
『この人、うちのそばの牛丼屋の店員さんだよ。昨夜も元気に働いてたよ』
また他には、間違ってはいないんだけど、今回はあまり役に立たない情報もお寄せいただいた。
『あ、高校のとき隣の隣のクラスだったドウリョウ君だ。
何かあったんですか?』
『この人知ってる!△社の研究所に勤めてる人だよ!△社に聞いてみるといいですよ!』
システム部員たちは手分けして、SNSでもらった情報を精査しつつ、それを追う班と、この合宿所の近所に足で聞きこみする班とに分かれた。
休日は今日までだった。
明日からは、全員がこんなことばかりやってられない。仕事に戻らないといけない。
今日、頑張らないと。
システム部員たちとオンライン会議をしたあと、オズボーンと総務部長は、佐藤本部長と本部長のご友人と合流して、警察に向かった。
しかし、合宿所の管理人さん一家が言うには、警察はそんなことではすぐ動いてくれないとのことだった。
その通りだった。
大企業の役員が訴えれば警察も動いてくれると目論んだ総務部長の考えははずれた。
警察は誠意を示してくれたし、とても気を使ってくれたが、とりあえず書類を作るだけで、すぐには動いてくれなかった。

(場面変わってサフラン国)
サフラン国の若き独裁者・サフラーヌは、ベッドの中でうなされた。
最初は火山ガスで病気になってしまったC美のことだけで胸が痛かったのだが、でも愛人の言葉でサフラーヌは、もっと辛い気持ちになった。
(私があの国の北西部の火山を噴火させた結果、C美みたいな人がたくさん発生した。
いやC美より大変な人もいた。
亡くなってしまった人がいた。
そして、その周りには、私と同じように胸がつぶれる思いをした人もたくさんいたに違いない)
サフラーヌはうなされた。
側近の言った言葉。
『我が国は、あの国のたったひとつの北西の火山を噴火させただけです。
有毒ガスが発生したのは、あの国の国民が産業廃棄物を垂れ流してたからでしょ?
我が国の責任ではありません』
を繰り返しては、無理やり気持ちを楽にして、苦しみから逃れようとしたり、でもまた、罪悪感と悲しみが蘇って来たりした。
アフラ―ヌは、眠りながら、脂汗を流しながらうなされた。
そして次の朝、サフラーヌは、側近たちを集めて会議をした。
「そんなつもりはないんだけど。
ちょっとした冗談なんだけど。
仮定の話としてきいてもらいたいんだけど」
そう前置きしてから、サフラーヌは側近たちに問いかけた。
「もしも、あの国の北西の火山爆発は、うちがやりましたって公表し、謝罪したらどうなると思う?」
側近たちは慌てて言った。
「サフラーヌ総裁!
そんなことをしたら、大変なことになります。
あの国自体には、喧嘩や戦争を起こすような度胸はないけど。
多分、賠償請求はされてしまいます。
そして我々は、あの国の同盟国たちからは、厳しく責めたてられるかもしれません」
「総裁。忘れないでください。
あの国の山を爆発させることが最終目標だったわけではないでしょ?
あれは、ただの実験ではないですか。
我が国の本当の目的は、いずれ、ローズ国の大山脈を大噴火させることなんですから」

(再び、合宿所)
合宿所の近辺の捜索には、研修生たちも協力してくれた。
今日は数少ない講義が休みの日だった。
休みの日は、本当は研修生たちは、管理人さんの掃除の手伝いをすることになっていたが、管理人さんが皆に言ってくれたのだ。
「君たちもドウリョウさんの捜索に協力するんだ!!」
システム部員と研修生はそれぞれペアを組み、外に出かけて行った。
そのころ、オズボーンと総務部長は、大手の探偵会社に向かっていた。
警察がすぐに動いてくれないのであれば、探偵会社に協力してもらおうという、桜田さんの旦那さんの発案で。
そして、システム女子と桜田さんと秘書さんは、とりあえず、謎のフリーライターの顔を見たという住人をたずねていた。
みんながそんな風に動き回っていたころ、ドウリョウさんは、ビジネスホテルで二日目の拷問&尋問を受けていた。
ドウリョウさんは、あまり痛くも苦しくなくなってきた、というか、むしろ快感に感じてきたムチ打ちと、首絞めを受けていた。
ピシッ!!
「いたああい!」
こうして声を発生するも気持ちよかった。
また、自分のお腹に跨るSM嬢のお股の感触も気持ちよかったし、SM嬢の細い綺麗な手が首に回されると、ドウリョウさんはゾクゾクした。
しかし、その午後だった。
この日はずっと拷問部屋(?)に顔を見せていなかったシステム女子の兄をかたっていた男が、突然、部屋に入って来た。
そして、SM嬢に拷問をやめさせ、乱暴な男たちに向かって言った。
「とりやめだ。
この男は解放することになりました」
男たちは驚いた。
SM嬢は、跨っていたドウリョウさんの上から降りた。
「どういうことだ?」
と乱暴な男の1人は言った。
「わからない。
サフラーヌ総裁からのじきじきの命令です」
システム女子の兄をかたっていた男はそう言った。
ドウリョウさんはポカーンとした。
そして、急に自分に対する興味を失ったかのように、テキパキと縄やムチを鞄にしまうSM嬢の様子を見て、すこし寂しさを感じた。
でも乱暴な男たちは、まだドウリョウさんに執着してくれた。
「どういうことなんだよ?
こいつ、何も白状してないんだぞ?」
「こいつをサフラン国に連れてくのならともかく、解放するって?
どういうこと?」
システム女子の兄をかたっていた男は、乱暴な男たちに向かって説明をした。
「サフラーヌ総裁の言うことには、ドウリョウの組織から情報がもれても、もう構わないということだそうです。
私にもよくわかりませんが?
もしかしたら、何かお考えがあるのかもしれません?」
「ええっ?」
「と言っても、私たちの足がつくと困るので、すぐには解放しません。
私たちが出国するまでの間、ドウリョウは、しばらくどこかに閉じ込めておきたい。
その相談をしましょう」
1人の見張り役とSM嬢を拷問部屋に残して、相談のために男たちは出て行った。
ドウリョウさんは縄に縛られたまま、キョトンとした。

さて、その後。合宿所からドウリョウさんが消えてから、6日目のことだった。
3日で連休は終わってしまったので、2人のシステム部員だけが研修合宿所に残り、後の者は皆は研究所に戻り、本来の仕事に戻っていた。
システム部長は、ドウリョウさんが海外旅行に行ってしまったという説にわりと傾いていて、多くの部員たちを引き上げさせてしまった。
でも、その代わりに総務部長が探偵会社の人2人を研修合宿所に送ってくれた。
オズボーンも再び合宿所にやってきていた。
オズボーンの上司、警備会社の隊長は、それを許してくれた。
少ないメンバーで聞きこみを続け、やっとドウリョウさんを連れ去ったらしい車が、ビジネスホテルに入って行ったという情報を得たのが、この6日目だった。
オズボーンとシステム部員1人と探偵社の調査員1人は、ビジネスホテルに向かった。
ビジネスホテルの支配人は、システム女子の描いたフリーライターの似顔絵を見ながらこう言った。
「ああ、この方。
5人のお連れで、5つ部屋を取られてご滞在されてました。
途中で女性のお客様も1人来られたので、お部屋の追加もしました」
しかし残念ながら、ビジネスホテルの部屋はもう、もぬけの殻だった。
「3日前に、皆さんお帰りになられましたよ」
探偵社の調査員は、立て続けに支配人にたずねた。
「その人たちはここを出て、次にどこに行くって言ってましたか?
どっちの方角に車を走らせましたか?
車のナンバーは控えてますか?
またこちらに滞在中どんな様子でしたか?」
支配人はその全ての質問に答えてくれた。
「どこに行かれたかはわかりません。
車は、最初にいらっしゃったとき、皆さんを降ろすと、すぐに立ち去りました。
ですので、うちの駐車場にお停めになっていたのは一瞬でしたので、ナンバーはわかりません。
お帰りのときにはまた違う車が迎えに来て、皆さんを乗せていかれましたので、これもナンバーまで見ておりません。
ご滞在中は、お部屋からは皆さん、ほとんど出てきませんでした。
お食事は、デリバリの注文ばかりされていました」
ここまでは結構、支配人は色々教えてくれた。
でも、宿泊者名簿や、防犯カメラは見せてくれなかった。
それはそうだろう。
こっちは警察ではないし。
支配人は、こんなことも言った。
「このお客様たちが帰られたあと、お部屋の掃除に行った者が驚いてました。
ゴミひとつなく、6部屋ともとても綺麗にピカピカにして帰られたので、感動しましたって」
ビジネスホテルを出ると、そばの定食屋で休憩をとりながら、オズボーンたちは、話し合った。
「さて、どうしますか?」
「ここまでの話を警察にすれば、警察も動いてくれて、宿泊名簿も防犯カメラも見られるんじゃないですか?」
「でもまあ、きっと宿泊者名簿なんて嘘だらけのような気もしますけどね。
一応総務部長に報告して、もう一度警察に頼んでもらいましょう」
「次どうする?
デリバリ業者にあたってみる?
ピザとおにぎり屋とラーメン屋とハンバーガー屋でしょ?結構、情報あるかもよ」
「駅には、既に散々聞きこみしましたが、何のめぼしい情報もなかったですしね」
「車でもうどこか違うところに行ってしまったとするとどうすればいいのか」
3人は、定食屋でご飯を食べながら、あれこれ話しあった。
そのときだった。
定食屋に置いてあったテレビが、ニュースを伝えた。
「今日、先ほど、●●県の犬猫島の海岸でSOSをのサインを出していた男性を、近くを通った漁船が救助しました」
オズボーンもシステム部員も探偵社の人も、テレビの方を見た。
「漁船の船長の話によると、この男性は島に取り残されて3日目程度だということで、首にアザや、身体にかすり傷はあるものの、それほど衰弱もしていなく、自分の足で歩いていて元気だったとのことです」
テレビのアナウンサーは、続けた。
「犬猫島は無人島で、釣りのシーズンには船で個人の釣り客が訪れることもありますが、この季節外れの時期に、船を持ってない人が島に渡って救助されたのは初めてとのことです」
オズボーンたちにはこのときはわからなかったが、夕方には、この男性がドウリョウさんだということが判明した。
次回最終回に続く
➡生き残った三軍選手たち㉔

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