生き残った三軍選手たち㉒
VSサフラン国

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
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(場面・アナコンダズ)
プロ野球アナコンダズの一軍で活躍し始めていた三軍出身の山村が、試合中、なぜかマウンド上で急に倒れた。
数十秒、起き上がらなかった。
リプレイの画像を見ていない選手やコーチたちは、ピッチャー返しを食らったのかと思って駆けつけた。
数十秒後に起き上がった山村は頭を振った。
立ち上がると、「大丈夫。何ともない」というゼスチャーをした。
しかし、山村はそのゼスチャーをした矢先に、またふらついて膝をついて崩れ落ちた。
山村は、大事をとってベンチに下がることになった。
火山毒ガスによる病人の症状を研究していた大学病院の教授は、たまたま、この試合をテレビで見ていた。
「これは、火山ガスの軽症者の症状に似ている。
しばらくなんともなくて、突然発症する人のパターンに似ている」
教授は、アナコンダズ球団に連絡をとった。
そして山村は、教授の大学病院に入院することになった。
次の日には具合はよくなったのだが、念のためにということで、火山毒ガスに詳しい教授のところで数日だけお世話になることにした。
タケシ君のお父さんとお母さんは、試合を見た次の次の日に、新聞でこのニュースを読んだ。
お父さんは言った。
「そうか。火山ガスのせいか。
山村は亡くなってしまうほどのトップレベルの人ではなかったけど、それに次ぐ、高レベルの肉体の持ち主だったのかあ!
やるなあ!」
お母さんは、その言葉に怒った。
「変な感心な仕方しないでよっ!!」
「ごめんごめん。
すぐよくなるといいよな。
ビビさんも心配だろうなあ」
山村以外にも、他にも似たようなケースが起きていた。
整形美人タレントのA子ちゃんの発案により結成された『整形美人オールスターズ』の中に、一人、この症状が出た人がいた。
『整形美人オールスターズ』は、火山ガスにより真正の美女たちを失くしてしまった複数の芸能事務所が協力し合って、整形美人をかき集めたユニットだった。
このユニットは一度出演したテレビ番組であっという間に人気を集めて、すぐにCDが発売されることが決定していた。
山村に似た症状が出たのは、C美ちゃんというメンバーだった。
C美ちゃんは、四度目のテレビ出演のときに、ステージ上で、突然倒れた。
それでやはり、山村と同じ大学病院に入院することになった。
C美ちゃんは、実はそれほど整形をしてなかったのだった。
八重歯の矯正をしたことがあるだけで、他はいじっていなくて、実はわりと生まれつきの真正美人だったのだった。
C美ちゃんの事務所が、有名演出家が乗り出した『整形美人オールスターズ』という大きな企画に乗っかっただけだった。
ちなみに、そういえば、最初に火山毒ガス事変が起きてトップレベルの美人たちが亡くなったときは、A子ちゃんは世間に揶揄されたものだ。
『前から噂あったけど、本人は否定してたくせにA子はやっぱり整形してたんだね』
『そうだよ。だって、火山ガスで亡くなってないことがその証拠』
『あの嘘つき女』
というように。
しかし、しばらくすると、世間は、A子ちゃんのタレントとしての魅力を認めたり、『整形美人オールスターズ』を熱烈に応援し始めた。
そうなった今、今度は、C美ちゃんが世間に叩かれた。
『C美ちゃん、整形してないくせに整形したってウソついてたんだね』
『そうだよ。だって火山毒ガスの影響を受けてたんだもん。
C美は、実は生まれつきの美人だったってことだよね』
『あの女、嘘つきやがって!!』
などと、言う人たちがいた。
いやはや、なんというか。

でも、もちろん、C美ちゃんがステージで倒れたことを悲しむファンだってたくさんいた。
その人たちは、心配したり、お互いを励ましたり、よくソースもわからない噂に動揺したりしていた。
『火山毒ガスは、C美ちゃんの命まで奪おうとしているの?!』
『大丈夫だよ。火山ガスは即死が多くて、遅れて亡くなった人はあまりいなくて。
軽症者はいずれ治るってコメンテーターが言ってた』
『そうだよ。
アナコンダズの山村も、入院先では超元気だってさ。
ただ、検査のために一応入院したみたいだって、さっきツイッターで誰かが言ってるの見たよ』
『いや、山村が入ったのって普通の病棟でしょ?
C美ちゃんが入った病棟の方は、重い人が入院するところみたいだよ?よくわからんけど』
C美ちゃんがステージで倒れた映像とともに、どうやらC美ちゃんも火山毒ガスの被害者だったというニュースは海外にも流れた。
それを見て悲しんだ人は海外にもいた。
その一人が、サフラン国の若き独裁者、サフラーヌだった。
彼女は、実は『整形美人オールスターズ』が結成される少し前からC美ちゃんのファンだった。
ある日ネットで見つけたC美ちゃんの映像に一目ぼれしていた。
そして、その後、C美ちゃんの発言や生い立ちなどを知って、サフラーヌはますますC美ちゃんのファンになっていた。
サフラン国の若き・女独裁者のサフラーヌは、今回の悲報を聞いて、胸を痛めた。
サフラーヌは、側近にたずねた。
「C美は、三つのうちのどの火山の影響を受けたのか?
まさか北西部の火山か?」
「それはわかりません。
どの火山かはわかりません」
「サフラーヌ総裁。
どこの火山であろうと、我が国は関係ありません。
あの国の国民が垂れ流した産業廃棄物のせいで、信じられない猛毒ガスが生成されただけであって、わが国には関係ありません。
北西部の火山をひとつだけ、ただ噴火させただけの我が国の責任ではありません」
側近たちがそう答えると、サフラーヌは、
「それはそうだ」
と、力強く頷いた。
しかし、その夜にネットを見ているときに、C美ちゃんが病院で苦しんでいるという(デマ)情報を見つけたサフラーヌ総裁は、部屋で愛人と二人きりになったときに泣き崩れた。
「私はただ、火山を爆発させたいだけだったんだ。
火山ガスと産業廃棄物の融合で、あんなひどい有毒ガスが発生するとは知らなかったんだ。
C美を苦しめるつもりなんて、私にはこれっぽっちもなかったんだ」
サフラーヌは、愛人の膝で泣いた。
愛人は、独裁者サフラーヌの頭をなでながら優しく言った。
「大丈夫ですよ。大丈夫。総裁。
C美は死んだりしません」
でもサフラーヌは愛人の膝で泣きじゃくり続けた。
愛人は言った。
「総裁、明日、よいことを一つしましょう」
サフラン国には、そんな教えがあった。
明日、今までやったこともないようなよいことを一つすれば、明後日、自分の願いがひとつだけ叶うという、そんな教えがあった。
愛人は続けた。
「総裁。
明日、今までやったこともないよいことを一つしましょう。
そうすれば明後日、C美はきっと退院する。
それを信じて。
何でもいいんですよ。
あなたが今までやったこともない、早起きして、お庭のバラの花にお水をやるでもいいですし。
そうですね、たまには街に出てみて、国民の話を聞くのでもいいですし。
そうすればきっとC美は助かる」
サフラーヌ・若き独裁者は、泣くのをやめて、愛人の顔を見つめた。
愛人は微笑みながら言った。
「大事なことは、総裁。
総裁がC美に対して感じた気持ちが大事なんですよ。
その気持ちを他の人たちに対しても持つことができれば」

(場面変わってコンプライアンス研修の合宿所)
合宿所の管理人さんの奥さんと娘さんは、大慌てだった。
総務部長からの依頼で、突然押しかけて来たたくさんのシステム部員たちの部屋を用意した。
突然、こんなに大勢の人の明日の朝ご飯の準備もしないといけない。
夜遅いというのに、奥さんと娘さんは、急に大忙しになった。
コンプライアンス研修を受けていた研修生たちも驚いた。
終電でやって来たシステム部員たちは、明日の早朝から、ここら周辺に聞き込みをかけるという。
食堂に集まって、地図を広げて明日の段取りを相談しはじめた。
管理人さんもつき合わされて、この付近の地理についてアドバイスを求められた。
朝早くグランドを一人で走っていた、ドウリョウさんの最後の目撃者の研修生は、そのときの状況について散々たずねられた。
そして、システム部員たちは、システム女子が描いて送って来た謎のフリーライターの似顔絵と、ドウリョウさんの写真をSNSで拡散した。
『この人たちを探しています』
『こっちの人は、●△県□街の■□合宿所付近で行方不明になりました。
お心当たりのある方は、ぜひ情報をください』
*************
(場面変わって、合宿所のそばのビジネスホテル)
ドウリョウさんを拉致ったサフラン国の男の一人は、怒鳴り続けた。
「誰の指示で我が国のことを調べてたんだっ?!
お前はどこの組織の者なんだっ?!
言えっ!」
SM嬢に散々ムチで打たれて、SM嬢の小さな細い手で首を締められ、ドウリョウさんは拷問を受け続けた。
システム女子の兄のフリをしていた男は言った。
「なかなか白状しませんね」
白状も何もない。
ただの遊びで、自分一人でサフラン国の軍事システムに侵入していたドウリョウさんだ。
何をどう言えば許してもらえるのかが全くわからなかった。
SM嬢の拷問を受けつつ、ドウリョウさんは考え続けた。
(もう嘘を言おうか?
どっかの団体のせいにして・・・。
そして、スキを見て、逃げ出す方法、外部に連絡を取る方法はないか?
それともこのまま時間稼ぎをすべきか?)
不思議なことに、慣れて来たというかなんというか、ドウリョウさんはだんだんSM嬢のムチが痛くなくなっていた。
SM嬢の小さな細い手で絞められてもあんまり苦しくないし。
いや、というか、むしろ、SM嬢の小さな細い指で自分の首を締められることが、なんとなく気持ちよくさえなってきてもいた。
なので、ドウリョウさんは余裕で黙って拷問を受けながら、しばらく方策を考えた。
もう夜遅くなってきた。
サフラン国の一味は、追及の手を休めた。
システム女子の兄を名乗っていた男は、
「続きは明日にしましょう。
ドウリョウさん、一晩頭を冷やして、よく考えなさい。
どうすることがご自身にとって一番得なのかどうかをよく考えてください」
と言った。
ドウリョウさんは、両足首と、両手を後ろ手で縛られた状態で、ベッドに座らされた。
そして縄で縛られたまま、SM嬢におにぎりを食べさせられ、栄養ドリンクや水などを飲まされた。
「ほら!アーンしな!
明日も尋問は続くんだよッ!
お食べっ!お飲みっ!
この薄汚い野良犬がっ!!」
その言葉に、なんだか少し快感を覚えるドウリョウさんだった。

ドウリョウさんが栄養を補給したあと、
「しっかり見張りを頼むぞ。
何かあったらすぐに我々を起こしてくれ」
と言って、一番乱暴な一人の男を残して、SM嬢もシステム女子の兄のフリをしていた男も、他の男たちも部屋を出て行った。
彼らは、この部屋の向かいの部屋や隣の部屋に宿をとっているようだった。
(明日の朝まで、この部屋にはこの男一人か?
手薄になる!
逃げ出すチャンスかもしれない。
それに、合宿所の人や会社の人が僕を探しているかもしれない。
時間を稼げば、助けに来てくれるかもしれない)
とドウリョウさんは考えた。
しかし、その時、急激に睡魔が襲って来た。
(ああ、しまった。
さっきの食べ物・飲み物に睡眠薬が入っていたのか・・・・・・)
とドウリョウさんは思った。
部屋に残った乱暴男は、ドウリョウさんを縄で縛ったままベッドの上に横たわらせたあと、部屋の机の上のパソコンの電源を立ち上げた。
「面白いもん見せてやるよ」
やがて、パソコンの画面には、サングラスはしているけど、それ以外はドウリョウさんにそっくりな男が、国際空港ではしゃぐ映像が映された。
「いえーい!ドウリョウでーす!
これから海外旅行でーす。
つまらない会社、めんどくさい研修合宿、全部捨てて、海外に逃亡でえーっす♪」
ドウリョウさんのニセモノは、映像の中でそんなことを言っていた。
迫りくる睡魔と戦いながら、ぼんやりした頭でドウリョウさんは、乱暴男の言葉をきいた。
「この映像はさっき拡散されたぜ」
*******
(再び、合宿所)
明日、早朝からドウリョウさんの捜索を始めるシステム部のみんな。
時刻が24時を回ってから、面々はいったん身体を休めることにした。
その後、自分に割り当てられた部屋で布団に入ってからもスマホをいじっていた一人のシステム部員は、深夜に、突然叫んだ。
「俺のツイッターに情報が来たぞ!」
同室に寝ていた他の部員二人は飛び起きた。
「ドウリョウの目撃情報来たかっ?!」
みんなでスマホの画面を見ると、そこには、
「さっきご本人ぽい人のインスタを見たんですけど、この人は海外旅行に行ったみたいですよ??」
という人のコメントがあった。
三人がリンク先に誘導されると、そのインスタグラムには、国際空港ではしゃぐドウリョウさん(そっくりさん)の映像があった。
次回に続く
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