生き残った三軍選手たち⑱
教頭が暴走

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある企業の研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいたし、北西部の火山のそばの研究所で働く人たちが、一瞬、火山ガスと研究所の関係を暴こうとしたが、なんかそれは違ったらしい。
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タケシ君が淡い失恋した少し後のことだった。
タケシ君の通う学校では校長が驚愕していた。
教頭が、校長にこんな相談をしてきたのだった。
学校に迷惑がかからないような区切りのいいところで、今年いっぱい、あるいは来年の3月の年度末にでも退職したいと言ったのだった。
「退職させてください。
残りの人生、私は子どもたちのラグビー教育などに関わる仕事がしたいのです」
と教頭は言った。
校長は度肝を抜かれた。
「どゆこと?!」
この名門・私立学校で教頭をやっている立場をなぜ教頭は捨てるのだ。
もちろんお給料はバツグンだし。
教頭は校長に自分の気持ちを語った。
「私は死ぬ前にやりたいことがあります。
子どものころに胸の中にしまい込んだ夢なんです」
校長は、大声を出した。
「あなたはまだ50歳手前だ!!
死ぬ前ってなんなの?!
僕くらいの年齢になったら、引退して好きなことをするのもありかもしれないけど、あなたが何言ってるんですか?!」
教頭は、言った。
「実はそうなんです。
正確には自分が死ぬ前ではなく、自分の気力がまだあるうちにチャレンジしたいんです」
今回、不幸なことに火山ガスでラグビー部の顧問の先生が亡くなってしまったことにより、皮肉にも教頭はラグビー部に関わることが出来て、自分の中にしまってきた思い、隠してきた思い、消えてしまっていた若い血が燃えてきたという。
校長は叫んだ。
「そんな!!バカじゃないか?!」
叫んだあと、校長は後ろを向いて自分の心を落ち着けたあと、少し考えてから教頭に向かって今度は静かに語った。
「そんなこと私にだってあります。
今の仕事を放り出して、ある日、何かのきっかけに、急に昔捨ててしまった夢を追いかけたくなることはあります。
でも今現在、自分の担っている役割の責任はどうするんですか?
それについてどう考えているんですか?
そして、それよりも、なによりも、心配なのはあなたのご家族です。
ご家族はどうするんですか?」
教頭は答えた。
「私は、子どもももう大学に入りましたし。
大丈夫です。
私も一応(笑)教員免許持ってます。(教頭はもともとは数学の教師だった)
塾講師のバイトで時給2000円くらいで雇ってくれそうなところがいくつかありました。
そこで働きながらラグビーに関わる活動をやりたいんです」
校長は呆れかえりながら言った。
「君の決意はわかった。
でもひどいじゃないか?
教頭の仕事を放り出すなんて!
そんなことされたら、僕やこの学校や生徒たちが困ってしまう。
そういう人たちの気持ちのことは考えないのか?君は?
君が昨日までやっていた”教頭”の仕事はなんだと思っているんだ?
その仕事に対して、君にはプライドはないのかっ?!」
教頭は急に悲しそうな顔になったが、しかしキッパリ言った。
「それは本当に申し訳ありません。すみません。
胸が痛みます。
申し訳ありません。
でも仕方ないのです。
僕の賭けた青春をあなたたちには止められない」
その言葉に食い気味で、
「待て!待て!待て!」
と校長は怒鳴った。
そして、溜息をついたあと、頭を振りながら校長は言った。
「理事長に相談してみよう」

(場面変わって、オズボーンのコンプライアンス研修の合宿所)
オズボーンは合宿所の自室を飛び出ると、管理人さんのところに走って行った。
管理人さんはまたクスッと笑った。
(こんな元気なくせに。やっぱり仮病か)
オズボーンは構わず言った。
「管理人さん!
誰かからドウリョウさん宛てに電話かかって来ませんでしたか?
この合宿所に」
システム女子いわく、フリーライターを名乗る男は、ドウリョウさんの電話番号は知らないはずだということだ。
どうして、早朝、ドウリョウさんは門のところまで呼び出されたのか?ということだ。
管理人さんは、
「電話なんかないですよ。私は受けてませんよ」
と答えた。
「本当ですか?!
管理人さん、いいですか?
ドウリョウさんは誰かに早朝に門のところに呼び出されたんですよ!
これは大事なことなんですよ!」
管理人は思わぬオズボーンの迫力に押された。
そして少し考えたあと言った。
「・・・あ!ちょっと待った。
家族が受けているかも」
管理人さんは、建物の奥に入り、娘さんと奥さんを連れて来てくれた。
娘さんは話してくれた。
「明け方に、ドウリョウさんの上司の方から電話がありました。
私は、ちょうどトイレに起きたところだったので、廊下の電話が鳴ってたのに気づいたんです。
何か、お仕事のことで至急の用があるということだったので、私はドウリョウさんを起こしに行きました。
何を話していたかって?
そこまではわかりません。
私はすぐに自分の部屋に戻ったので」
管理人さんはオズボーンに説明した。
「ドウリョウさんのお部屋にはお荷物もスマホもそのままあるので、多分、すぐ戻って来ると思うんですよね。
研修合宿が辛くて逃げる人は2パターンあります。
本当に逃げ出す人は、荷物を持って出てゆく。
そうではなく、ちょっと発作的に逃げ出してしまう人は、荷物は置いておく。
で、数時間ほど外で自由の時間を過ごし、ほとぼりが冷めたらすぐに戻ってくる」
ちょうどそのとき、この研修を企画している会社の事務方の人がやって来た。
事務方の人は管理人夫婦に言った。
「ドウリョウさんの会社は今日お休みなので連絡がとれません。
今日は一日様子を見ましょう。
多分、すぐにドウリョウさんは戻って来られるんではないかと思います」
オズボーンは叫んだ。
「そんな!悠長な!
すぐ警察に連絡だ!」
管理人さんの奥さんは言った。
「こんなことで警察が動くわけないでしょ?
うちの合宿所でも、十年前一番最初に逃亡者が出たときには、慌てて警察に電話したけど、すぐには動いてくれなかったですよ。
その人も、結局たった半日で戻って来たし」

今日は休日だった。
システム女子は、オズボーンの指示でシステム部の部長の家に電話した。
スマホはやめた。
システム部長がちゃんと自宅にいることを確認したかった。
「私が、ドウリョウに早朝、電話?
してないよ。
何?ドウリョウが合宿所を逃げ出した?
あいつ!!
総務部長の温情でせっかく軽い罰ですんだというのに!!」
部長は怒っていた。
システム女子は、システム部の課長3人の家にも電話した。
全課長も家にいたし、ドウリョウさんに電話はしてないと言った。
その後、システム女子は、システム部員の全員共有のLINEでこのことを投げかけた。
すぐにチラホラ返信があった。
『ドウリョウさんになんて会いに行ってませんよ。
あんな遠いところ』
『ドウリョウに電話なんてしてないよ?
どういうこと?』
『え?
ドウリョウさん研修を逃げ出したんですか?』
『ドウリョウさんは行方不明なの?』
これらを確認したあと、システム女子はオズボーンに電話した。
「私、オズボーンの言う通りのことをしてみたけど。
これ、ホントにただのドウリョウさんのエスケープだったとしたら、どうする?
彼に大恥をかかせちゃうだけだわ~。
あるいは、フリーライターの言うことがホントだとしたら、無駄に騒ぎを大きくして、尻尾切り一味に私たちがやっていることがバレちゃうわよ?」
オズボーンは、システム女子の言った前者については、もしかしたらそうだったらちょっとドウリョウさんゴメンと思ったけど、後者の話は信じてなかった。
オズボーンは、ドウリョウさんが会社と結託して、ライバル社のコンピューターシステムに潜入するような人だとは思わなかった。
では、ドウリョウさんの身に何が起こっているのか?
それはわからない。
とにかく、ドウリョウさんの行方不明をみんなが大騒ぎしてほしかった。
とにかく、ドウリョウさんの身に安全を守るのが最優先だと思っていた。
でもこれ以上、どうしたらいいんだろう?
オズボーンは頭を抱えた。
自分は合宿所から出られない。
オズボーンは決断した。
オズボーンは、管理人さんがお昼ご飯を部屋に持って来てくれたあと、荷物をまとめて、合宿所から脱出した。
他の研修生は授業に参加していたので、グランドには誰もいなかった。
誰もいないグランドの片隅の一番低い塀を乗り越えて、オズボーンは合宿所から脱出することにした。
一番低い塀といっても、4メートルはあった。
塀の内側から、オズボーンはまず荷物の入った旅行鞄を放り投げた。
塀を越えさせようと思って。
しかし鞄は届かなかった。
塀を超えられなかった。
もう一度力をふりしぼって、オズボーンは鞄を放り投げた。
今度はオズボーンの旅行鞄はうまいこと塀を越えて行った。
そのあと、自分で塀をよじ登り、外に飛び降りた。

オズボーンは自分の上司の警備隊の隊長にはメールをしておいた。
『僕、コンプライアンス研修合宿をエスケープしますが、心配しないでください。
罰を受ける覚悟です』
そして、オズボーンは道路でタクシーを捕まえた。
タクシーで駅に向かって走り、北西の研究所方面に向かう列車に飛び乗った。
列車の中で、桜田さん、システム女子、秘書さんに電話をした。
「桜田さんの家に行きます。
桜田さんの持っている様々な資料が見たい。
その資料をあらためて検討することが必要です。(ゴルフ賭博以外のことで!!)
皆さん、桜田さんの家に集合してください。
僕も18時くらいにはそっちに着けると思う」
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(場面再び、タケシ君の通う私立学校)
教頭の暴走発言があった。
校長と、教頭と、理事長が、散々話し合った結果、結論が出た。
(理事長=この私立学校の経営をつかさどる人です)
★教頭の新年度よりの役割
①教頭の役職は解任するが、数学の教師として授業を持つ
②学校運営がスムーズにまわるよう、新しい教頭の仕事が軌道に乗るまでその仕事の補佐をする
③ラグビー部の部長となりラグビー部全般の責任者となる
④月給の減額変更●●万➡△△万円
⑤ボーナスはゼロへ
➅ラグビー部を県代表以上まで持っていけたらボーナスが出る。
※他の条件・変更点=ラグビー部の活動は今後は、週3回以上おこなってもいいことにする
理事長も実はラグビーが好きだった。
だから、このお勉強熱心な学校の中学にも高校にもラグビー部を設置していた。
理事長はラグビー部の運営についての助言もノリノリで教頭にしてくれた。
「あなたは自分ではラグビーはできないでしょう?
高等部のラグビー部の卒業生などにコーチに来てもらうのも手ですぞ。
幸いあっちの顧問は生き残っている。
相談されてみてはいかがでしょうか」
「イエス!!」
校長は、少し安心したような、ちょっと不安な気持ち半分で、理事長と教頭のやり取りを見ていた。
次回に続く
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