生き残った三軍選手たち⑰
ドウリョウさんが消えた!

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある企業の研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいたし、北西部の火山のそばの研究所で働く人たちが、一瞬、火山ガスと研究所の関係を暴こうとしたが、なんかそれは違ったらしい。
*********
研究所から遠く離れた、コンプライアンス研修の合宿所。
深夜、風呂場で秘書とテレホンセックスをした次の日の朝、オズボーンは朝食前のランニングのために外に出た。
少し寝不足の身体でフラフラと歩いてゆくと、合宿所の中庭では、ランニングのために集合していた合宿参加者たちが、やけにざわついていた。
「何かあったんですか?」
オズボーンは一人の人にたずねた。
「あ、オズボーンさん。
あなたのお仲間のドウリョウさんが行方不明なんですってよ」
(この研修合宿は、いろんな会社の人が参加している合宿だ。)
もう一人の人が言った。
「私は同室なんですけど、朝起きたらドウリョウさんがいなくって。
先に外に行ったのかと思ったんだけど、ここにもいない」
「えっ?!」
そのとき、向こうから走って来る人がいた。
いつもみんなより早くグランドに出て、自主練(?一体、何がメインの合宿なんだよ?)をしていた人だった。
「ドウリョウさんだったら、早朝、門のところで見ましたよ。
門を挟んで、門の外にいる人と何か話していたよ」
オズボーンにはイヤな予感がした。
「ど、どんな人と?!
どんな様子でした?」
「普通の男性っぽかったです。
うーん。遠かったからどんな様子かまではよくわからないのですが」
そのとき、研修の教官と、合宿所の管理人さんが、合宿所から出て来た。
教官はみんなに向かって言った。
「ドウリョウさんのことはこちらで調べますので、皆さんは心配しないで。
いつも通りのメニューに入ってください。
ランニングを初めてください」
オズボーンは教官に走り寄った。
「ど、どうしたんですか?
ドウリョウさんは一体、どこに行ったのですか?」
そのとき、教官の隣に立っていた管理人さんはクスッと笑った。
「あのね。
よくあること。
二年に一回くらいあるんですよね。
辛くって合宿所から逃亡する人。
この前のときは、ダンスの研修合宿だったけど」
呑気な管理人さんをよそに、オズボーンの胸は不安でいっぱいになった。
(ドウリョウさんが、合宿所から消えた?
門のところでしゃべっていた誰かと一緒に?)
オズボーンは仮病を使い、ランニングと朝食を欠席することにした。

自室に戻って、オズボーンはすぐにシステム女子に電話した。
「ドウリョウさんが合宿所からいなくなったんだ!」
「まあ!私たちの動きを察知してドウリョウさんは逃げ出したのかしら?」
オズボーンが、
「な、何それ?
君は昨日から一体何を言っているんだ?
逃げたんじゃないよ!
誰かに連れ去られたかもしれないんだよ!」
と言うと、システム女子は、
「んま!
じゃあ、まさかフリーライターさんの言ってたとおり!
トカゲのシッポ切り?」
と言った。
「君は一体、何言ってるの?!
フリーライターさんって何?」
オズボーンは、自分がこっちに来てから研究所で一体何があったのか、システム女子から話を全てちゃんと聞かないといけないと思った。
電話を一度切ってオズボーンは、朝食会場の教官のところに行った。
「頭痛がすごくって、今日一日は研修を休ませてください。
でもご心配なく。
いつものことなんです。
僕、いつも薬を持ち歩いているんで、こういうときは薬を飲んで横になって、数時間静かにさえしていれば治るんです」
教官は了解してくれた。
「わかりました。今日はオズボーンさんはお休みで。
でも念のために医務室にも行ってください」
教官のテーブルのそばには、管理人さんが立っていた。
管理人さんは小さな声でクスっと笑った。
「出た!仮病使って授業をエスケープするやつ」
オズボーンは再び部屋に戻ると、電話でシステム女子とじっくり話をした。
そして、自分が合宿に入っている間に、研究所付近で起こった様々なことを初めて知った。
●桜田さんが追っていたのは、研究所と火山ガスの関係ではなく、ゴルフ賭博のことだったこと。
●(これはどうでもいいことだけど)システム女子が、無名雑誌の記者から、野球選手の恋人に間違われたこと。
●フリーライターの話。
ドウリョウさんは、ライバル会社のコンピューターシステムに侵入し、研究情報や顧客情報や新製品情報を盗んでいるらしいということ。指示しているのは社長や研究所所長ではないかということ。
システム女子は、
「悪事がバレそうになったから、会社が彼を隠したんじゃないかしら」
と言った。
しかし、オズボーンはそうは思わなかった。
そのとき、合宿所のオズボーンの部屋のドアをノックする人がいた。
「システム女子ちゃん、ちょっと待ってて」
オズボーンは一旦、スマホを置いた。
そして緊張しながら、部屋のドアを開けた。
そこには管理人さんがいた。
管理人さんが食べ物を持ってきてくれたのだった。
管理人さんは、食べ物のお盆を置くと、お茶を入れてくれた。
そしてニヤニヤしながら、オズボーンの部屋のカーテンを開けたり、そこらへんを片付けてくれたりした。
世話を焼くフリをしてウロウロしながら、イヤミを言った。
「近頃の若い人は、デリケートだねえ(根性がないねえ)」
(はいはいはい)とオズボーンは聞き逃した。
管理人さんがウロウロしている間に、オズボーンはフリーライターについて考えていた。
(なんだか怪しい人じゃないか?)
やっと管理人が出て行ってくれると、オズボーンは電話に飛びついた。
そしてシステム女子に思いついたことをたずねた。
「もしかして、君、そのフリーライターとやらにこの合宿所の場所を教えたのかい?」
「教えたっけかな?
どうだったけっかな?
ああそう言えば、別れ際にチラッと言ったかもしれないわ」
「そいつだよ!!
きっとそいつがドウリョウさんを連れ去ったんだよ!!」

(場面変わってタケシ君)
タケシ君は、私立の中高一貫校の中学部の生徒で、部活はラグビー部だった。
しかしタケシ君の学校はお勉強熱心の学校だったので、部活は週に三回までだけと決まっていた。
ラグビー部の顧問の先生は火山ガスで亡くなってしまったが、新しい顧問の成り手が見つかるまでは、校長先生と教頭先生が交互に面倒を見てくれていた。
実技の指導はできないけど、タケシ君たちには安全面の監督者が必要だったので、その役を果たしてくれた。
週三回だけとは言え、忙しい校長先生と教頭先生はよくやってくれた。
特に教頭は、練習試合も再開してくれて、実際に土日の試合の遠征の引率を引き受けてくれた。
「教頭先生も大変ねえ。
試合にもついてきてくれるの?
ありがたいことねえ。
でもさ、そんなことは何も教頭先生がやることじゃないんじゃないの?
何より、火山ガスのせいで休部になってしまった他の部活と比べて不公平だって言われちゃうんじゃないの?」
とタケシ君のお母さんは言った。
タケシ君は、教頭先生が話してくれたことをお母さんに説明した。
教頭先生は言っていた。
「僕は子どものころから運動音痴で身体も小さいし弱かった。
ホントは大好きだったのに、あんまりスポーツに関われなかったんだ。
僕が中学の頃なんて、放課後、指をくわえて運動部の連中を眺めていたんだから。
だから、今は君たちの仲間になれて嬉しい。
亡くなった先生の代わりにはとてもなれないけどね、僕は少しでも役に立ちたい」
教頭は、特にラグビーについては子どもの頃から書物やテレビで勉強して知識を得て、大人になってからは様々な試合を観戦して、ここ最近はネットのラグビーファンのコミュニティにも参加していたラグビーおたくだった。
次の休日、ラグビー強豪校とお手合わせしてもらったときに(このマッチアップは教頭がセッティングしてくれた)なんと、タケシ君の学校は、ジャイアントキリングしてしまった。
この試合に向けての練習や対策は、いつも通りキャプテンや三年生たちがみんなを指導したが、教頭先生がちょいちょいと口を出してくるようになっていた。
キャプテンたちも、ちょいちょい思っていた。
(先生の案、それいいな)(教頭、詳しいな。面白いこと考えているな)
そして試合当日も教頭の作戦の一つ二つを採用して、タケシ君たちのチームは勝ってしまったのだった。

勝った試合には、タケシ君もほんの少しだけ出してもらった。
タケシ君はとても嬉しかった。
そして、タケシ君の頭の中には、ビビちゃんの顔が浮かんだ。
(僕、いつか、山村の代わりになってあげるよ)
とタケシ君は心の中でつぶやいた。
家に帰ってお父さんとお母さんに勝利を報告すると、微妙なことを言いつつも、まあ二人は喜んでくれた。
「よかったわね。
お母さん、その学校がどれくらい強いのか知らないけど、見たかったわあ」
「中学でラグビー部を持っている学校は少ないからなあ。
ちゃんとやればタケシの学校も結構いいとこまで行けるかもなあ」
ひととおりラグビーの話が終わった後、お父さんは、思い出したように言った。
「あ!そうそう。
さっきビビさんから電話があって、さ来週の●日に会いたいってさ」
(会いたい?
いつもは『アナコンダズ戦に一緒に行こう』って言うのに。
何、その誘い文句は?)
タケシ君は、ドキドキした。
タケシ君はカレンダーを見た。
「●日?
んんん?
月曜でしょ?
その日はアナコンダズの試合はないんじゃないの?」
お母さんは言った。
「試合観戦のお誘いじゃなくって、ビビさんは私たち家族と食事会がしたいんだって。
いつか一緒に行った『レストラン・アマゾン』で。
あなた、月曜は部活もお休み日でしょ?
夕方6時には間に合うでしょ?」
お父さんは、
「俺もその日は残業しないようにする。
少し遅れちゃうかもしれないけど、6時半には間違いなく行けると思う」
と言った。
タケシ君は、その夜、興奮が止まらなかった。
自分が出た試合の興奮も残っていたし、そこに来てビビちゃんのお誘い。
頭が混乱するほど興奮した。
お風呂に浸かっているいるときタケシ君は考えた。
(なぜ、野球観戦ではなく、平日にお父さんお母さんも大集合での食事会なんだ?)
お風呂場の前の脱衣所でお母さんが洗濯機を回し始める音が聞こえた。
タケシ君の汚れたユニフォームを洗ってくれるのだ。
(ビビさん、どういうこと?)
タケシ君は考えた。
お母さんが脱衣所を去って行った。
タケシ君は、湯船を出ると、興奮しながら、身体を洗った。
(まさか、ビビさん。
僕とのお付き合いを許してくださいとかってお父さんとお母さんに言うつもりなの?)
洗濯機がの音が大きくなってきた。
(どうしよう。お父さんとお母さんの前でそんなこと言われたら恥ずかしくって困っちゃうよ)
洗濯機はまもなく、脱水タイムに入り、さらに音が最大になってきた。
タケシ君の家の洗濯機はまだそういうタイプの洗濯機だった。
タケシ君は、洗い場で自分のモノを握った。
そして激しくしごいた。
湧き上がって来る興奮を収めるために、タケシ君は激しく手を動かした。

約束の日の6時10分に、『レストラン・アマゾン』にタケシ君が到着したとき、レストランの外でビビちゃんが待っていてくれた。
「タケシく~ん!
あらあ!制服姿、カッコイイわね。
お父さんもお母さんももう来てらっしゃるわよ」
電車通学のタケシ君だった。
この日は部活もなかったし、学校に近いこの場所には余裕で6時に間に合うかと思ったのだが、ちょっと委員会の仕事で遅くなってしまった。
ビビちゃんは言った。
「委員会?すごーい。
あは、タケシ君って、お父さんより忙しいのね?」
ビビに誘導されて、タケシ君はレストランアマゾンの個室に向かった。
そして、個室のドアを開けると・・・・・・
そこには山村がいた。
興奮するお父さんが、ハイテンションマックスで、穏やかに微笑む山村に向かってマシンガントークで質問を浴びせかけていた。
「あの試合って実際どうだったの?」とか「あの時の試合の監督の采配どう思った?」などなどと。
お母さんは、その二人の様子をニコニコ見守っていた。
タケシ君のここからの記憶はあまりない。
このお食事会の記憶があまりない。
ただ、
「私たち、結婚しました。
式をもしやるとしたらシーズンオフになると思いますが、今回、籍だけは入れました。
真っ先にタケシ君ご家族にはご報告したくって今日はお招きしました」
というビビちゃんの言葉だけが、タケシ君の心には残っている。
次回に続く
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