生き残った三軍選手たち⑫
生き残ったオズボーンたち

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいた。
北西部の火山のそばの研究所で働く人たちが、この企業の不正を暴こうとしていた。
そのメンバーは5人。
本業は三流漫画家で、研究所で警備のバイトをしているオズボーン。
研究所の研究職の桜田さん。
研究所のシステム系女子。
研究所のシステム男子のドウリョウさん。
研究所の所長の秘書。
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研究所の正門の警備室のモニターは、まるでシステム系女子のプロモーションビデオみたいになってしまっていた。
警備室に並んだ12画面の監視カメラ映像には、システム女子の笑う顔、お菓子を食べる顔、ムチムチのミニタイトスカートの映像が、次々と流れた。
警備員たちは、何が起こったのかわからず、驚愕して画面を見ていた。
ドウリョウさんは、システム女子本人の了承を得て撮った動画や、隠し撮りした動画を自分のパソコンに隠し持っていた。
今回、テンパってしまって、間違ってソレを流してしまった。
**********
オズボーンとドウリョウさんは、お咎めを受けることになった。
研究所敷地内の警備システムを悪戯したというとんでもない罪で。
しかし、男二人は、桜田さんとシステム系女子と秘書が絡んでいるということについては、何とか口を割らないですんだ。
オズボーンとドウリョウさんは、それぞれの上司である、警備隊の隊長と、システム部長と、あと、この研究所の総務部長に囲まれて事情聴取をされた。
「オズボーンさんに警備室のモニター画面の話を聞いていたんです。
目の前に12画面がズラッと並んで、それはそれは圧巻だよと」
ドウリョウさんは、嘘を語った。
「その12画面とやらに、女性の映像がズラッと並んだら、さぞや芸術作品になるだろうと思ってやってみたかったのです」
オズボーンもそれに合わせて話をした。
「ドウリョウさんがその映像を流すとき、僕一人が警備室にいる予定だったんです。
僕一人が、そのふざけた映像を見届けるずだったんです。
皆さんをお騒がせするつもりはなかったんです。
ただ、僕がたまたまお腹を下してトイレから出られなくなってしまって、警備室に行けなかっただけなんです」
「ドアホッ!!そういう問題じゃないだろがっ?!」
警備室の隊長は怒鳴った。
ドウリョウさんとオズボーンはぺこぺこした。
ドウリョウさんは頭を下げながら言った。
「すいませんすいません!!
皆さんにはご迷惑にならないように、ほんの5分間だけ、女性の映像を流してみたかったんです。
自分の腕を試したかった部分もあったし」
オズボーンも言い訳をした。
「すいませんすいません!!
僕もそんなことが可能なのかどうか、実に面白いと思って、見てみたかったんです。
ドウリョウさんにそんな難しいことができるものなのかと?」
二人の男は、上司たちの前で、一生懸命、ただのアホを演じた。
ま、実際、アホなんだけども。
システム部長も怒鳴った。
「君らのやったことは、クビにするとかしないとかのレベルの問題じゃない!!
速攻で警察に突き出されても文句は言えない案件だぞッ!!」

「すみませんっ!」
オズボーンとドウリョウさんは、土下座した。
しかし、ここで総務部長が助け船を出してくれた。
本来、研究所の秩序を守るべき立場の総務部長さんが、二人を助けてくれた。
「まあまあ。
実にバカバカしいが、この二人には悪気はないようだ。
ただのバカだ」
総務部長は続けた。
「それに、すごい技術じゃないか?
警備カメラを乗っ取るなんてさ。
ドウリョウ君は、天才だね?」
システム部長は、総務部長に部下を褒められて、悪い気はしなかった。
しかし、ドウリョウさんのやったことは許せないし、システム部長の気持ちは揺れた。
「ま、まあ。
まあそうですけどね。
ドウリョウはすごいと思いますよ。
で、でも、ですね。
ハッカーですよ?
犯罪ですよ」
警備隊の隊長も、総務部長が、”警備会社側の落ち度ではなく、ドウリョウさんの技が並外れていた”と言ってくれたので、少しホッとした。
オズボーンは、隊長のその表情を見逃さなかった。
オズボーンはすかざす言った。
「僕は、我々の鉄壁の警備システムをドウリョウさんが破れるのかどうか、いわば『警備VSハッカー』の対決の気持ちでした!!
もし、ドウリョウさんにそんなことが出来たら、それは今後、うちの警備システムの課題にもなるとも思って。
勉強になると思って、見届けたかったのです!」
二人の処分は、後日出されることになった。
とりあえず自宅謹慎を命じられた。
その部屋の様子をシステム系女子は、盗聴器できいていた。
(まだ、危険なことしとるんかいっ!)
盗聴器をオズボーンのポケットに持たせていた。
「なんか、あと一押しで総務部長が味方になってくれそうね」
とシステム女子はつぶやいた。

次の日の朝早く、総務部長は、システム部長と警備隊長を部屋に呼んだ。
総務部長は語った。
「若者は、とてつもなくおろかだ。
でも、チャレンジ精神が旺盛なことには、我々、年寄りは驚かされる。
バカな開拓精神が旺盛な若者たちは、もしかしてわが社の発展にも役に立つのではないでしょうか?」
その言葉に驚き、システム部長と警備隊長は、総務部長の顔を見た。
総務部長は言った。
「どうでしょう?ご両人。
オズボーン君とドウリョウ君には、一か月くらい合宿でもさせて、コンプライアンスの研修をみっちり受けさせる。
そして反省文でも書かせ、減給二か月くらいで手を打ってあげたらどうでしょうか?」
システム部長と警備隊長は驚いた。
システム部長は、
「ドウリョウは犯罪者ですよ?
あいつの上司として、私も責任取ろうと腹をくくっていたほどですけど?」
と言った。
警備隊長も、驚いて、
「うちの警備会社が、御社から、未来永劫、契約を破棄されても仕方がないくらいの事件ですよ?
私も、数日後に警備会社に辞表を出すつもりでしたのですけど?」
と、言った。
総務部長は首を振った。
「ご両人。
あなたたちお二人の責任の取り方は、辞めることじゃない。
あの若者たちを正しい人間に導くことが、あなたたちの責任だ。
私はそう思う」
驚いているシステム部長と、警備隊長に向かって総務部長はこうも言った。
「私はこの件について、研究所所長に報告しました。
所長は、処分を全て私に任せると言ってくれました。
私は、本社にも報告しました。
本社も、処分は私に任せると言ってくれました」
オズボーンとドウリョウさんの自宅謹慎は一日で終わった。
そしてすぐに、一か月間のコンプライアンス研修合宿にぶち込まれた。
********
オズボーンとドウリョウさんは各々の会社からクビを言い渡されることにもならずに、警察に突き出されることもなくすんだ。
ただ、しばらくの間は動きが取れない状況になってしまった。
でも二人の男は、桜田さんとシステム女子と秘書を庇うことは出来た。
桜田さんは、研究所のタンク室に置いてあった段ボールを手に入れたし、所長や社長のメールを手に入れることもできた。
所長室の部屋にあった書類も、少しだけではあるが手に入れることが出来た。
きっと、桜田さんがこの会社の不正を暴いてくれる。
そうオズボーンは思った。
コンプライアンス研修の合宿所からオズボーンは桜田さんにメールした。
「桜田さん、ごめんなさい。
桜田さんが、最初に僕に言ってくれたこと。
『もしも私が消されても、あなたが漫画家として、世間に対してこの会社の不正を発信してね』って言ってくれたのに、僕、自分が先に撃沈しちゃいました」
桜田さんから返事が来た。
「こちらこそ面倒に巻き込んでごめんなさい。
でもまだまだ、勝負はこれからよ。
あなた達は生き残った。
この先、ホントに私が先に消されるかもしれないし。
そのときはあなたが見て来た全てをマンガに描いてください」

女子たちも頑張っていた。
この桜田さんの作戦を成功させるために。
そしてオズボーンとドウリョウさんを守るために。
オズボーンたちが自宅謹慎をしていたときに、システム女子は大嫌いな秘書に泣きついた。
「オズボーンを助けてあげてください!
クビになっちゃう!
もしかしたら警察に突き出されるかも」
秘書は言った。
「私だってオズボーンちゃんを助けたいわよ。
でも、あなた、私のこと嫌いなくせに。
どうして急に私にすがってくるのよ。
大体、私に何ができると言うのよ?
こんな事態になってしまったら、私にもどうすることもできないわ」
システム女子はオズオズとたずねた。
「ひ、秘書さん。
年上はお嫌いなんですか?
いつも年下の男の子ばかりにちょっかいを出して」
「はあっ?
こんなときに一体何の話をしてるのよ?
あなた、また喧嘩売る気ィ?」
*****
秘書は総務部長と寝た。
寝てくれた。
総務部長を誘惑して、「あなたがオズボーンを助けてくれるならあなたに抱かれてもいいわ」と言った。
システム女子は知っていた。
総務部長が実は秘書に夢中だということを。
昔、本社にいたときから、それは有名な話だった。
そのころ本社では総務課長だった彼が、秘書のセクハラ事件をうやむやにしたのではないかという噂まであった。
しかし、年下好きの秘書は、総務部長のことは”ただのおっさん”としか見てなかった。
それは研究所所長に対しても同じだったが。
システム女子は、土下座して秘書に頼んだ。
「総務部長を誘惑して、オズボーンたちを助けてくれるようにお願いしてください」
秘書は、オズボーンのためにひと肌脱ぐことにした。
生意気なシステム女子が自分に対して土下座までして来たのも気持ちよかったし、秘書は頑張った。
まあ、元来、男好きだし、誰とセックスするにもそれほど抵抗はなかった。
それに、意外にセックスしてみると、年上の男もよいものだと気づいた。
総務部長は熟練のテクニックで秘書をひいひい言わせたのだった。
******
桜田さんもオズボーンたちを巻き込んでしまった責任を感じて、二人を助けるために何か動こうとしたが、システム女子に止められた。
「あなたまでもが変な動きをして、もしも捕まってしまったら、当初のプランが遂行できません。
オズボーンとドウリョウさんのことは秘書さんに任せて。
大丈夫です。
あなたは初心をつらぬくことだけに力を注いでください。
私もまだ無傷です。
私もきっとまだ何かに役に立てます」

(場面変わって)
火山噴火の毒ガスによって亡くなってしまった大女優・マキマキ子。
彼女の隠し子・真紀を、芸能事務所社長夫妻は自分の子どもとして育てた。
愛情を注いで育てた。
社長夫妻の本当の娘、マミに言わせれば、
「お姉ちゃんは、お母さんみたいに子どもといつも一緒にいられる専業主婦になることが夢なのよ」
と言うことだったが、しかし、その真紀が『お父さんの会社以外のところで女優になる』と置き手紙を残して家出をした。
社長の奥さんは泣いた。
社長夫妻は、心あたりのあるところに電話をしまくって、真紀の行方を捜した。
しかし、どの友達の家にも、親戚のどこの家にも真紀はいなかった。
当初、能天気に構えていた妹・マミもさすがに心配になってきた。
「警察に言おうよ」
そうマミは、両親に言った。
「そうだな。
いよいよそうするか」
しかし社長がそう言った次の日、一本の電話がかかってきた。
遠い地方にある、地方だけでやっている、極々小さめな芸能事務所、OK事務所さんの進藤さんという人からの電話だった。
「突然のお電話失礼いたします。
確認させていただきたいことがあるのですが」
「はい?」
進藤さんとやらは、自分が電話をかけてきたくせに、なぜか社長の本名と身分を確認した。
社長は戸惑った。
「一体何のお話ですか?」
進藤さんとやらは、驚いたようにこう言った。
「この電話番号は嘘かと思ったのですが、本当にあなたにつながったとは!」
進藤さんの話はこうだった。
若い女の子が、突然、女優の勉強をしたいと言って、OK事務所をたずねてきたとのことだ。
進藤さんは、喜んだ。
彼の目から見て、謎のオーラをまとった、魅力的な雰囲気を持った女の子だった。
進藤さんは彼女とすぐに契約をしようと思ったが、話をきくとまだ17才だったので彼女に言った。
「ご両親の承諾をいただかないといけない。
お父さんかお母さんに会いたいんだけど?」
少女は言ったそうだ。
「私、両親とは今会いたくありません」
「だめだよ。そんなの。
ご両親と連絡をとろうよ。
僕に教えてくれ。ご両親の電話番号を教えて」
進藤さんは真紀にそう言って、なんとか電話番号を聞き出したそうだ。
進藤さんは社長に向かって立て続けに質問をした。
「真紀さんって、本当にあなた様みたいな有名大手芸能事務所の社長さんの娘さんなんですか?
どうしてうちみたいなローカルにいらしゃったんですか?
社長さんはそれを認めていらっしゃるんですか?
それとも、あなたがお父さんと言うのは彼女の嘘なんですか?
もしそうだったら、申し訳ありません」

進藤さんは、わざわざ上京して真紀を連れて来てくれた。
「うちの事務所に君が入ることは大歓迎だ。
ご両親がもしも反対なさったら、僕が説得する。
でも、君自身も一度は、ちゃんとご両親とお話しないとダメだ」
と、真紀を説き伏せて。
真紀の決意も堅いことが、社長夫妻にもわかった。
「私、前に修学旅行に行ったときに、舞台を見て感動したの。
OK事務所さんが作った舞台に感動したの。
こっちでは見たことのない舞台だったわ」
そう真紀は言った。
社長の奥さんは、会って話してみて、進藤さんが人間的に信頼できる人物だと判断した。
地方だけを中心に頑張っている小さな事務所。しかし、進藤さんはなかなかエネルギッシュな男だと社長は感じた。
社長の勘がそう言っていた。
思えば自分も、元々小さな小さな事務所を死にもの狂いで大きくした。
マキマキ子とたった二人で。
そう社長は思った。
でも世の中そんなに甘いものじゃないことも社長は知っていた。
しかし、結局社長は決断した。
(賭けてみよう。二人に。
見てみよう、二人を)
社長夫妻は、真紀がOK事務所でお世話になることを認めた。
妹のマミだけが大泣きして、家族を責めた。
「どうしてわざわざそんな遠くの事務所に言っちゃうのよ!
お姉ちゃん、バカじゃないのっ?
お父さんもケチ!意地悪!
お父さんの会社に入れてあげればいいじゃないの!!
お母さんのバカ!何でこんなこと許すのよう!」
次回に続く
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