生き残った三軍選手たち⑪
スパイ大作戦、大ピンチ

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいた。
北西部の火山のそばの研究所で働く人たちが、この企業の不正を暴こうとしていた。
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整形美人のA子ちゃん以外のタレントを失った芸能事務所の社長は、新たな人材を次々と探していった。
素人相手に歌のお教室をやっていた元CD歌手。
以前、本人自らが売り込みに来たが、断ってしまったタレント志望の”ちょっと惜しかった人”たちにも声をかけた。
社長は本当は、若手のスカウトや育成も手掛けたかったが、あまり資金にゆとりがなかった。
今回の火山ガスでは、トップレベルのスポーツマンと美人と美声の持ち主は亡くなってしまったが、いずれもある程度の年齢をいった人たちだった。
中には10代で亡くなった人もわずかだけいたが、概ね20歳以上だった。
少なくとも10代の前半までの子供たちが亡くなった例はなかった。
つまり、未来にトップレベルになる人材たちは、まだ生き残っているのだ。
そういう子どもを探して育てるのはよい策なのだが、社長の会社にはお金のゆとりがあまりなかった。
手っ取り早く、ある程度の当座のお金を稼がなければならなかったのだ。
なので、すぐに表に立てる大人たちをスカウトしてまわった。
大女優・マキマキ子を始め、亡くなってしまった看板スターたちの過去の映像や、写真集、CDなども一時的期にはたくさん売れはしたが、いつまでもそればかりに頼っているわけにはいかなかった。
会社の従業員は、半分に減らしてしまった。
社長自ら、どこかに埋もれている三軍タレントたちを探しまわった。
そんなある日、たった一人の稼ぎ頭となっていたA子ちゃんは、社長と大事な話がしたいと申し入れしてきた。
急に一軍の舞台に立たされたためにその重圧に耐えられなくて辞めてしまった女子高生のアリスちゃんのことを思い出して、社長はびびった。
「まさか、A子までが・・・・・・?」
しかし、A子ちゃんは社長の想像していないことを言った。
「私、ヌードになりましょうか?」
「ある出版社の人に言われたんです。
今、テレビにバンバン出ている私がヌード写真集を出すのであれば、〇〇〇万円出すって。
あと、それとは別の会社の人にも言われました。
アダルトビデオに出てくれるのであれば、△●●●万円出すって。
それらは、こっそりと私個人へ持ち掛けられた話なんですけど、これを逆手にとって、うちの会社でそういう企画すれば儲けられるんじゃないかと思って」
そっちの業界も人材不足なんか~いっ?!
と社長は思った。
油断ならないことだ。
「バカもーん!!」
社長は、A子ちゃんを怒鳴った。
「君が本当にそれをやりたいのなら、かまわない!
止めない!やればいい!
でも、もしもうちの会社を救うために、本当は脱ぎたくもないのにひと肌脱いでやる!と言っているのであれば許せない!
バカにするな!」
A子ちゃんは、あっさりと、
「ちょっと言ってみただけですよう。
社長、そんなにエキサイティングしないでください」
と肩をすくめて言った。
社長は、頭をうなだれた。
そして言った。
「ごめんよ、ごめんよ。
怒鳴ったりしてごめんよ。
私が不甲斐ないばっかりに、君に心配させてごめんよ」

肉体的にも精神的もクタクタになった社長は、家に帰った。
家では、社長の奥さんと長女の真紀が揉めていた。
リビングで大喧嘩をしていた。
次女のマミは、二人を一生懸命なだめていた。
社長は、うんざりした。
家庭でまで揉め事が?
「何だ?なんだ?
一体、どうしたんだ?!」
と社長は家族たちにたずねた。
次女が、社長に説明した。
「つまんないことなのよ。
お姉ちゃんが、女優さんになりたいって言いだしてさ。
お母さんが、絶対許さないって怒り狂ってさ」
社長は、驚いた。
次女マミは、言った。
「私だって前に、モデルになりた~いってよく言ってたじゃない?
お姉ちゃんだって、ちょっとした冗談よ。
なのに、お母さんがあまりに怒り狂うから、お姉ちゃんもムキになっちゃってさ。
それで揉めてるだけよ」
次女は、母に向かって言った。
「私がモデルになりたいって言ったときは、お母さんはさ、笑ってさ。
『ふふ。いいわよお。
オーディションでもなんでも受けなさい』
って余裕の顔で言ってたじゃない?
『どーせ受からないわよ。
もし万が一、あなたが受かったら、お母さん喜んで全力で応援しちゃうわよ。
なんなら履歴書書くの手伝ってあげましょうかあ?』
なんて言ってたじゃないのよ。
どうして、お姉ちゃんにはそんなに怒るのよ」
「そ、それは・・・その・・・。
お姉ちゃんは、お勉強が大事な時期だからよ」
社長の奥さんは、そう言った。
その発言に次女のマミは怒った。
「なんでよっ!
あたしだってお勉強、大事でしょ?」
奥さんは慌てて言った。
「ごめんなさい。
お勉強というか、その、あの、とにかく、あんな不安定な大変な世界に飛び込むことはお母さん許しませんから」
長女・真紀は社長に向かって言った。
「お母さんは許してくれないけど、お父さんならわかってくれるでしょ?
私、女優さんになりたいの!」
しかし、社長は答えた。
「甘ったれたお前なんかには絶対にやっていけない厳しい世界だぞ?
それにお父さんの力を借りてデビューしようなんてずうずうしい根性は気にいらないな」
真紀の顔がこわばった。
何か小さな声で、家族には聞こえない捨て台詞を吐いて、真紀はリビングを出て行った。
長女・真紀がリビングを出て行ったあと、次女・マミは両親に言った。
「あんなの一過性のものよ。
お姉ちゃんは、昨日かなんかに、たまたま映画でも見て素敵な女優さんでも見たんじゃないの?
なんで、二人とも本気にしてんのよ?
私、知ってるんだ。
お姉ちゃんが本当になりたい職業は、お母さんみたいな専業主婦だもん。
小さいころからいつも言ってたもん。
子どもといつも一緒にいられる家庭を作ることが夢なんだって」
その言葉に社長の奥さんは涙目になった。
奥さんは涙をうるうるさせながら言った。
「だって、お姉ちゃんはあなたと違って本気に見えたから、つい怒っちゃったのよ」

次の日は休日だった。
しかし休日の夜、社長の家庭には事件が起こった。
へそを曲げて、ハンガーストライキ宣言をして、ずっと自分の部屋に引きこもっていたと思っていた長女・真紀がいなくなったのだ。
社長は、夜仕事から帰って来ると、真紀の部屋のドアの前に置きざりになっていた、奥さんの作った冷めてしまった炒飯とスープの乗ったお盆を跨いでドアをノックした。
「コンコーン!
真紀~!
お父さん、ケーキを買って来たぞう。
フルーツのたくさん乗ったやつだぞ~」
しかし返事はなかった。
というか、人の気配がなかった。
社長は、つっかえ棒で抑えられていたような真紀の部屋のドアに体当たりしてを力づくで開けた。
そこには誰もいなかった。
真紀は、二階の自分の部屋から、窓や塀づたいに外に抜けだしたようだった。
そして真紀の洋服ダンスは半分ほどカラになっていた。
社長の奥さんは、納戸に閉まってあったはずの、以前みんなで海外旅行のときに使った大きなトランクケース四つがなくなっていたことに気づいた。
真紀の部屋の勉強机の上には、簡単な置き手紙があった。
『お父さん、お母さん、マミ。
みんな今までどうもありがとう。
近いうちにちゃんと挨拶にうかがいます。
近いって言っても一年後とか二年後とか?もしかして五年後とかかな?
私は、お父さんの会社じゃないところで女優さんになりますね』
オロオロする両親をよそに、妹のマミは、呆れたように言った。
「は!?
遅れてきた反抗期?
お姉ちゃんみたいなマジメなタイプって意外とバカなんだよねえ?」
マミが両親に向かって、
「大丈夫、大丈夫。
心配しないでもお姉ちゃんはすぐに帰って来るってば」
と言ったとき、しかし、社長の奥さんは泣き崩れていた。
社長も顔面蒼白で立ち尽くしていた。
真紀は実は、故・大女優マキマキ子の隠し子だった。
社長夫妻が引き取った子だった。
呑気な次女をよそに、社長と奥さんは頭の中では以下のようなことがグルグルとめぐっていた。
(真紀は、自分がマキマキ子の娘だと気づいていたのか?
真紀は、自分は私たちの子どもではないと何かのタイミングで知ったのか?
戸籍でも見たのだろうか?
以前は自分を捨てたマキマキ子を恨んでいたのだろうか?
でも火山事変のあと、考えが変わって、自分が、亡きマキマキ子をつぐ女優だと思ったのだろうか?
それとも、気づいてはいないけど、マキマキ子の血が、そしてマキマキ子の死が、真紀をこういう行動に駆り立てるのか?)

(場面変わって)
深夜の研究所の所長室に忍び込んだオズボーンたちだったが、秘書とシステム女子が喧嘩を始めたので、桜田さんは決断した。
「こちらの部屋の捜査の続きは、また後日にしましょう」
そう桜田さんは言った。
「秘書様。本当に申し訳ありませんでした。
後日、私一人でまいりますので、なにとぞよろしくお願いします。
本日はどうもありがとうございました」
桜田さんは秘書にペコペコしながら、所長室を後にした。
オズボーンは、システム女子の腕を引っ張って所長室を出た。
所長室を出ると、三人は今度はシステム部に向かった。
システム部は、やっと他の社員さんが帰宅して、ドウリョウさん一人になったという連絡が来ていた。
オズボーンは、そろそろ警備室に戻らないといけない時間だったが、警備室に電話した。
「すいません。
僕、ちょっとお腹を下しちゃって下痢が止まらず、トイレから出られないんです。
あと10分したら戻ります。
それまでは申し訳ありません」
なぜならオズボーンはドウリョウさんに、監視カメラの細工の失敗を伝えなければならなかったからだ。
システム部に着くと、オズボーンは部屋に飛び込み、まずドウリョウさんに向かって叫んだ。
「ドウリョウさん!!
今すぐに、監視カメラの映像変えてっ!!」
オズボーンは事情を説明した。
さっき警備室にいたときに、自分が食堂周りの監視カメラに映っていたことを。
ドウリョウさんは慌てて自分のパソコンの前に座った。
「監視カメラの映像を変えるって?
何に変える?
他の日の録画?」
ドウリョウさんは、あせりながら、パソコンを慌ただしく操作した。
オズボーンは言った。
「いえ!他の日の録画もまずい。
今日出勤していない警備員がもしも映ってたらまずい!
静止画像がいいです!」
ドウリョウさんは、
「え!ちょっと待って!待って!」
と軽くパニくりながら、パソコンをいじっていた。
慌てている男性陣を尻目に、桜田さんとシステム女子は、システム女子のパソコンの前にゆっくりと座った。
桜田さんは椅子に座り、大きく深呼吸をした後に言った。
「さあ、所長の社内メールや、社長の社内メールを見せてちょうだい」
システム女子は頷き、やはり大きく深呼吸したあと、緊張しながら、パソコンを操作し始めた。
桜田さんの持って来たハードディスクをパソコンにつなぎ、そこに所長のメールや社長のメールを送り込んでいった。
桜田さんとシステム女子が緊張しながらも順調に作業を続ける中、ドウリョウさんはかなりテンパってあせって作業をしていた。
「静止画、静止画・・・・・・」
何も手伝えないオズボーンはハラハラしながら、高速で動くドウリョウさんの手の動きを見守った。
そして、
「よしっ!!」
の声とともに、エンターキーを力強く押したドウリョウさんの手の動きは止まった。

その10秒後、研究所の正門にある警備室は大騒ぎになった。
そのとき、二人の警備員がいたのだが、ちょうど二階の仮眠室で寝ていた警備員もトイレのために一階に降りて来たときだった。
警備員三人が、監視カメラのモニター映像を見ながら、驚いたのだった。
12画面ほど並んだ監視カメラの画面全てに、なぜかシステム系女子の映像が映っていたのだった。
監視カメラ映像12画面には、まず、なぜか、システム系女子がお菓子を食べながら笑う顔が流れた。
警備員三人は、自分たちの目の前に一体何が起こったのかわからなかった。
「な、なんだ?」
「なんだ?これ?」
その数10秒後、今度はまじめな顔でパソコンに向うシステム女子の映像が流れた。
女子の顔は、徐々にアップになっていった。
警備員たちは、口々に言った。
「なに?これ??」
「はあっ???」
そして次は、随分と長い時間、モニター12画面にはシステム女子の下半身の映像がうつされていた。
会社内をあちこち歩き回るシステム女子の腰から下の映像だった。
ムチムチのタイトスカート姿で、研究所内を歩き回るシステム女子の下半身の映像だった。
なぜ、監視カメラにこんな映像が映っているのだ?と警備員たちはパニックになった。
次回に続く
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