生き残った三軍選手たち⑩
研究所の不正を暴けるのか?・・・そんなんで

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいた。
北西部の火山のそばの研究所で働く人たちが、この企業の不正を暴こうとしていた。
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正門の警備室には監視カメラのモニターがずらっと並んでいた。
オズボーンは、あせった。
今現在、自分は警備室にいるくせに、食堂付近にも歩いてるオズボーンが、モニターの一つに映し出されていたのだ。
監視カメラの映像に細工を施し、過去の録画を流していたオズボーンとドウリョウさんだったが、彼らは少しアホだった。
そのとき、先輩警備員が、モニター画面を見ているオズボーンの方に近づいて来た。
(どうしよう!!
早く画面の中の自分、そこを立ち去れ!)
オズボーンはそう祈った。
先輩が、オズボーンのすぐそばにまで近寄って来た。
オズボーンは、急いで椅子を立ち上がり、モニター画面の前に立ちはだかった。
「何してんだよ?」
と先輩は言った。
「いやあ~!肩がものすごくこっちゃってえ!
少し運動したいなあ!」
オズボーンはモニターの前で、両腕を激しく上に上げたり横に広げたり動かした。
「外で5分だけ運動して来ていいぞ」
先輩はそう言うと、オズボーンの肩をグイッと押しのけて、モニターの前に座った。
(うわああっ!!)
オズボーンは心の中で叫んだ。
先輩はモニターを見て、つぶやいた。
「んっ?なんだ!これ?」
(万事休す~ッ!!)
オズボーンは両手で両目をふさいだ。
しかし、先輩は思いがけないことを言った。
「なんだかなあ~。
食堂の周りの木、枝が少し伸びすぎてるなあ~。
こんなに伸び放題にしてて、邪魔じゃないのかなあ?」
オズボーンは、顔から手を離して目を開いた。
食堂付近のモニターには、もうオズボーンは映っていなかった。

(場面変わって・・・・・・)
プロ野球アナコンダズの一軍投手が、火山の毒ガスでたくさん亡くなった。
そのため、三軍から急きょ一軍に昇格した山村。
今日、初めての一軍の公式戦の途中から出場して、無失点で抑えた山村だった。
ビビちゃんは試合観戦のあと、タケシ君とお母さんと一緒に球場そばのレストランにご飯を食べにいった。
レストランで三人は個室をとって、大いに盛り上がっていた。
試合が終わるまでは無口だったビビちゃんは、楽しそうにマシンガントークでペラペラお喋りをした。
「タケシ君、今日の試合、お父さんに見せてあげたかったねえ。
あのバッターいいよねえ。
猛打賞よう!
お父さんは目が高いよ。
あと、8回で打った〇〇もよかったよねえ」
とか、
「タケシ君、もっとたくさんお野菜食べなきゃダメよう!
お野菜とお肉をバランスよく食べないと、犬田選手みたいになれないわよ。
あ、違うか、タケシ君は野球選手じゃなく、ラグビー選手なのか。
そっか。肉多めなのがいいのかな?」
とか、
「お母様、もっとビール頼みましょうか?
飲んで飲んで。
いいじゃないですかあ。
いつも忙しい主婦のたまの休日ってことで!!
ほらほら!今日は私が全部奢りますからあ!」
とか、ビビちゃんは浮かれまくってしゃべりまくった。
でも、『山村』のことは口に出さなかった。
タケシ君のお母さんは、上機嫌で2杯目の中ジョッキを飲みながら、ビビに言った。
「なんか球場で会ったときは、ビビさんってものすごい神経質な付き合いづらい人かと思ってたら、こんな楽しい人だったのねえ。
ねえ、あなたも飲みなさいよう」
「いえ、私はビール飲めないんです」
タケシ君のお母さんは、メニューをビビに渡しながら言った。
「何?ビール飲めないの?
じゃワインは?
ワインはどう?」
「ワインは飲めますが、私、味というか、よく銘柄がわかんないんです」
「じゃ私が選んであげるわ。
ワインは一本、私に奢せて。
残したら私が飲んであげるわ」
と、お母さんは言った。

三人は美味しい物を食べ、タケシ君はジュースを、大人たちはお酒を飲んだ。
途中でお母さんが御手洗いに席を立ったあと、タケシ君はビビにこう言った。
「ビビさん。
本当に山村が好きなんだね?」
ビビはハッとした顔をした。
タケシ君は続けた。
「さっきまで山村のことで頭がいっぱいで緊張してたんだね?
この前の山村の出ない試合は元気だったのに。
今日の試合は、山村のことが心配でしょうがなかったんだね。
でも、山村が抑えて、嬉しくて今、こんなにはっちゃけてるんだね?
うちのお父さんもよくそういうことが・・・」
そこで、ビビは、泣きだしてしまった。
張りつめていたものが解き放たれたて、泣きだしてしまった。
ビビはお母さんに勧められてワインをたくさん飲んで、既にベロベロに酔っていた。
しかもお母さんの選んでくれたワインの銘柄は、偶然にも山村が一軍に昇格したお祝いのときにビビが買ったものと同じだった。
山村と喧嘩したときだ。
(二話目ね)
酔っていたビビは、タケシ君の言葉で、我慢していたものがはちきれてしまった。
ここは個室だし、まるで家にいるかのような空気だったので、ビビは無防備になってしまった。
顔を両手で覆ってビビは泣きだした。
「うう・・・うう・・・」
山村が一軍でちゃんとやっていけるのかが不安でたまらなかった涙。
今日は勝ったので、喜びの涙。
でも少しだけ・・・・・・もしかしたら山村がどっか遠くに行ってしまうかもしれないという不安の涙もあった。
山村が二軍から三軍に落ちてしまって、やさぐれていたときに街でナンパされたのがビビだった。
一軍になった山村は、自分から離れて行ってしまうのではないか。
色々な感情が重なり合って、ビビは泣いた。
その泣き声が、だんだん大きな嗚咽になってきた。
「うっうっ!うっ!うッ!」
タケシ君は、困ってしまってオロオロした。
御手洗いから帰ってきたお母さんも、ビビの豹変ぶりに驚いた。
「ビビさん!!どうしたの?!!タケシ?どうしたの?」
「僕にもよくわからないんだよう」
そのとき、ビビのスマホが鳴った。
「ああ、電話よ。電話!
ビビさん、電話!電話!出て!」
ビビはポケットからスマホを出したが、手元を滑らせて下に落とした。
そして泣き続けた。
「うう!ううう!うううう!」
床に放置された電話は一旦切れたが。
数秒後にまた鳴りだした。
タケシ君は心配した。
「お母さん、電話、何度もかかってくるよ。
なんか緊急な用件なんじゃないの?」
ビビが電話に出ないので、お母さんは、
「私が出るわよっ!」
と言って、床のビビのスマホを掴んだ。
「もしもし!
すいません。
私は、ビビさんの友だちの者です。
怪しい者じゃありませんわ。
彼女が電話に出れませんので代わりに出ました。
ええ。
今ここにビビさんはいます。
え?
は?
あなた、彼氏さんですか?
じゃあ、今ビビさんが大変なことになっているので、迎えに来てくださいませんか?
ごめんなさい。
私が無理やりお酒を飲ませちゃって酔っぱらっちゃったみたいなの。
ベロベロに酔って泣いてしまって。
あのね、アナコンダズ球場のそばの『レストラン・アマゾン』っていうレストランの個室なんです。
来れますか?」
と、お母さんは電話をかけてきた主に説明した。
その数十分後、ビビを迎えにレストラン・アマゾンに来た人物は、何と山村だった。
ビビちゃんはそのときトイレで吐いていた。
お母さんは、今日試合を見たくせに、山村の顔をよく覚えていなかった。
山村の私服のイメージとユニフォームのイメージが大きく違ったこともあったが、試合の後半は、雨対策に追われて、あまり試合に集中していなかったお母さんだった。
「すいませんねえ。
彼氏さん。
私がワインをたくさん飲ませちゃったのです。
ビビさんは、今トイレです」
と、山村に向かって説明した。
「いいえ。こちらこそ。
ビビがご迷惑をおかけしてどうもすみません」
と、山村はお母さんに頭を下げた。
そのやり取りの横でタケシ君は、突然の山村の登場に、驚きのあまりに腰を抜かしていた。

(場面は、再び研究所)
桜田さんの家に段ボールを置いてきたシステム系女子と桜田さんは、赤い車で研究所に再び戻った。
東の門からシステム系女子は研究所に入った。
東門の警備員は、システム女子にたずねた。
「どうしたんですか?忘れ物ですか?」
「どうしても仕事で気になることがあって。
眠れなくって戻って来ちゃったんです」
そのとき桜田さんは、再び、車の後部座席の下方に毛布をかぶって隠れていた。
システム系女子と桜田さんは、研究所の所長室に急いだ。
さっきドウリョウさんから、「まだ2人帰らないヤツがいるんだよ!まだシステム部には来ないで!」と連絡があった。
なので、先に所長の部屋に行くことにしたのだった。
オズボーンも再び、敷地内を巡回する仕事の時間になったので、正門の警備室を出て所長の部屋に向かった。
研究所所長室には、”セクハラ秘書”が待っていた。
「うふ~ん♥オズボーンちゃーん」
秘書がオズボーンに抱きつきキスをしたときに、ちょうどシステム系女子と桜田さんが到着した。
オズボーンは、慌てて秘書を突き飛ばした。
「きゃあ!何するのよう!」
秘書は床に転がった。
オズボーンは、
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい、つい」
と言って、床に座り込んだ秘書にペコペコ謝った。
「失礼しちゃうわねえ!!
起こしてちょうだい!」
オズボーンは、おずおず手を差し伸べて、秘書を引っ張って立たせてやった。
システム系女子は、すごい怒りの目つきで秘書を睨みつけて立ち尽くしていた。
『何が悪い?』という顔で、秘書もシステム系女子を睨み付けた。
オズボーンはオロオロした。
桜田さんだけが、三人の男女の様子におかまいなく、機嫌よく、テキパキと話を勧めた。
「秘書さん。どーもどーも!
今夜は、この部屋の中を自由に見て回ってもいいんですね?
どうもありがとうございます。
まずは、所長のお机拝見させてもらっちゃってもいいですか?
鍵はどこ?
あ、システム女子ちゃんとオズボーンさんはそっちの本棚を見てちょうだい」
オズボーンは、
「何を調べればいいんですか?」
と桜田さんにたずねた。
桜田さんは、
「本棚の本を一冊、一冊開いて、なんか紙が挟まってないか調べていって。
何でもいいので、隠してるみたいな紙があったら、コピーをとってから、元通りにしておいて。
あ、秘書さんコピー機はどこですかあ?」
と言った。
しかし、システム女子と秘書はまだ、にらみ合っていた。

桜田さんに促されて、やっとそれぞれの作業が始まった。
桜田さんは、所長の机の中をひっかきまわしては、コピーした物を自分の鞄にしまったり、何か写真を撮ったりしていた。
本棚にたくさんある本を開いては、中に挟んである紙などを探すオズボーンとシステム系女子。
秘書は、脚を組んでソファに座って皆の様子を眺めていた。
オズボーンは、薄い本と本の間にあったノートを見つけた。
オズボーンがそれを持ってコピー機の置いてある隣の小部屋に行こうとしたところ、秘書がソファを立ち上がった。
「私がコピーしてきてあげるわ。
あなたは、今の作業を続けてて」
「ああ、すいません」
「いいのよ。その方が効率的でしょ?」
次にシステム系女子は、分厚い本の間から英語が書かれたメモを何枚も発見した。
「これ」
システム女子は、ソファの秘書のところに行ってメモを渡した。
「はあ?」
と秘書は言った。
「コピーお願いしま・・・」
とシステム女子が言いかけると、秘書は、
「コピー機はあっちよ」
と顎を突き出した。
システム系女子はカーッとした。
システム系女子は、くるりと秘書に背を向けると、コピー機の部屋の方に、小さな声で歌いながら歩いていった。
「♪盛りのついたメスダヌキ〜は、男の手伝いしかしません~♫てか」
秘書は、それを聞き逃さなかった。
「あんた!今、なんつった?」
秘書は、すごい形相になり、システム女子をコピー機の小部屋に追いかけて行った。
「うわあ!」
オズボーンは、手にしていた本を放り出すと、二人の女性を追いかけて行った。
桜田さんも、所長の机を調べる手を止めた。
「あなたたち、一体何やってるのよおお〜?!」
次回に続く
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