生き残った三軍選手たち⑧
色々コンプラが緩い人たちの会社やな

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、なぜか、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
世間のネット民の中の一部には、火山のそばにある研究所が毒ガス生成に関わっているんじゃないかと噂する人もいた。
北西部の火山のそばの研究所で警備のバイトをしていた売れない漫画家オズボーンと、システム系女子は、研究職の桜田さんから、「この会社の不正をあばくのを手伝ってほしい」と言われた。
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プロ野球アナコンダズの試合。
火山爆発で、アナコンダズの一流投手はたくさん亡くなっていた。
元・三軍のピッチャー山村は、今日一軍の公式戦のマウンドに初めて立った。
しかし、山村は、ファーム時代のライバル谷町の突然の出現にびびった。
いや、ライバルというか、苦手選手というか。
谷町にはあそこに投げても打たれる、こっちに投げても打たれる。
変化球を投げても打たれる。ストレートを投げても打たれる。
過去のイヤな思い出が山村の脳裏にフラッシュバックしてきて、頭がクラクラした。
結果、びびった山村は、大暴投をした。
キャッチャーは取れずに、ボールは後ろに転がって行った。
敵の二塁ランナーはすかざす、三塁に走った。
「うわ!」
「きゃあ!」
「いやあああああああっ!」
スタジアムで試合を見ていたタケシ君とお母さんとビビちゃんは叫んだ。
キャッチャーがタイムを取り、マウンドに歩いて行った。
内野の選手たちも近づいて来た。
山村はキャッチャーに向かってすがるように言った。
「け、敬遠させてください。
谷町、苦手なんです」
キャッチャーは山村を叱った。
「アホか!?
何言ってる?
落ち着け!
今日は調子いいぞ?
谷町なら打たれても内野ゴロに取れるぞ。
というか、塁に溜めてからの次の打者の方がよっぽど怖いわ!」
サードの選手は言った。
「大丈夫。大丈夫。
今度はしっかり守るから安心して投げてくれや」
セカンドの選手も言った。
「自信持って行ってください!」
そのときだった。
ゴロゴロゴロゴロッ!!
「んん?」
タケシ君たちの後ろの席のカップル客が話をするのが聞こえた。
「何か今、変な音しなかった?」
「うん聞こえた」
ピカッ!!
ゴロゴロゴロゴロ・・・・。
空が微かに光ったようだった。
そして鈍い雷の音。

次に、風に乗ってすごい速度で球場の上には薄黒い雲がやってきた。
キャッチャー達が定位置に戻るころ、急に小雨が降り出した。
「やあん!雨」
後ろのカップル女性が言った。
ピカッ!
ピカッ!!
いな妻が光る球場。
山村はボールを投げた。
谷町は見送りのストライク!
雨が少し強くなってきた。
「やだあ。降るって言ってなかったのに」
お母さんは、食べかけの焼きそばに蓋をした。
お母さんにタオルをかぶせられながら、タケシ君はビビちゃんに向かって言った。
「きっと、犬田が空から応援しているんだよ!」
雨に濡れたまま、ビビちゃんはタケシ君を見つめた。
「犬田さんは怒っているのかもよ~。
山村、しっかりしろってさ〜」
飲み物を椅子の下に避難させたり、忙しく自分の鞄や頭もポリ袋で防御しながら、お母さんは言った。
「ビビさんも、その山村の応援タオルかぶんなさい。
濡れちゃうわよ」
後ろのカップルの男が、小さな声でクスクス笑うのを彼女にたしなめられていた。
「はは。犬田は雨天中止にしてくれようとしているかもな」
「しっ!」
雨が激しくなってきた。
雨に打たれながら、山村は力を込めて、次の球を投げた。
ファール!
確かに谷町は山村のボールに力負けしているようだった。
しかし、くらいついてくる感じだった。
ファール、ファール、ファール!
一応追い込んだが、なんとかかんとか谷町はくらいついてくる。
ビビちゃんは山村のタオルを肩にかけたまま、雨に打たれながら、山村をじっと見続けた。
次の球だった。
谷町は打った。
鋭い打球が三遊間に飛んだ。
敵の三塁ランナーはホームを目指してスタート!!
タケシ君もビビちゃんも心臓が止まりそうになった。
お母さんは、まだ忙しく雨対策をしていたので、見ていなかった。
三塁手がボールをキャッチし、そしてすぐに体勢を直し、ホームに投げた。
ランナーとキャッチャーが激しく交錯した
プレートアンパイヤは、派手なアクションとともに叫んだ。
アウトオオ!!!
そして、その後、アナコンダズの野手たちがガンガン打って点を取ってくれた。
もうビビることもなく安心して山村は、投げ切ることができた。

A子ちゃんの芸能事務所の社長は、タケシ君のお母さんのママ友が通っているボイトレ教室に向かった。
ボイトレ教室の先生に会いに行った。
(二話目で出て来た先生ね)
今、素人の有閑マダム連中相手に、ボイストレーニングやカラオケ教室を開いている先生は、元CDも出したことがある歌手だった。
社長の会社の歌手や女優は、火山ガスによりたくさん亡くなってしまって、今は整形美人のA子ちゃんしか残っていなかった。
社長は、元CD歌手の先生にたずねた。
「決意を固めていただけましたか?」
「ええ、社長。
今、ここの教室も盛況だったのでとても悩みましたが、後輩が後を継いでくれることになりました。
そして、他にもお話をいただいているところもあったのですが、社長の会社に決めました。
今後、お世話になります」
社長は、右手を差し伸べた。
「ありがとう!これからよろしく」
元CD歌手の先生は、社長の手を取り握手をしながら言った。
「以前は私のことなんか全く相手にしてくれなかった社長のお願いですもん。
光栄ですわ」
「おっと!
そんなことないですよ。
あなたのことは、素敵な歌手だな~っていつも思って見てましたよ。
でもあなたはサニー事務所専属だったから。
そしてあるとき、急に引退なさってしまった。
あれ?どうしちゃったんだろうって、ずっと気にしていたんですよ」
と、社長は言った。
先生は笑った。
「あはは。
社長、覚えてないんですか?
私は、若いときに、一番最初に社長の事務所のオーディションを受けに行ったんですよ。
そこで落とされたんですよ」
社長は、驚いた。
「ごめん!ごめんなさい!
そうだったんですか?
僕は知りませんでした!
うちのやつらは全く見る目がないな」
先生は、フフンと笑った。
「いえ。そのオーディションに社長は同席されてましたよ」
社長は、赤くなった。
先生は続けた。
「確か、そのとき社長は『君の歌には心がない』っておっしゃってましたわ」
社長は、土下座せんばかりになった。
「もぉ~おぉ〜!
すいませええん!
ごめんなさいってばああ!
許してくださいようお!
いじめないでくださいよう!」
先生は言った。
「いいんですのよ。
あのころは、私は確かに未熟でしたから」

北西の火山の研究所のそばの居酒屋の個室に、オズボーンとシステム系女子と、研究職の桜田さんが集まっていた。
システム女子とオズボーンは、この前桜田さんに出された宿題の答えを持って来ていた。
二人は事前に打ち合わせもしていた。
システム女子は、この恐ろしいことに自分が関わることに躊躇したが、オズボーンがやけに張り切っているので力を貸すことにした。
システム女子は、桜田さんに報告した。
「社長や重役や各地の研究所所長のメールは、私には閲覧できます。
する方法わかりました。
ただ、その後、私がいじったことがバレるとまずいので、もうひとり仲間に引き込んでいいですか?
そういうのの偽装工作が得意な同僚がいるんです」
「その人は誰?信頼できる人?」
「ドウリョウさんです。
あの人は優秀だし、鋭い。
桜田さんも知ってるでしょ?」
桜田さんはギクリとした。
以前に、お昼に一つしか持っていっちゃいけないお弁当を二つくすねた桜田さんの罪を摘発?したのがドウリョウ君だった。
オズボーンも自分の宿題の報告をした。
「警備の監視カメラを停止できることはできます。
実際、故障であちこちがよく止まっていることもありますし。
監視カメラ映像を僕一人が独占することはできないので、故障させちゃうのも手かと思います」
オズボーンは続けた。
「でもですね。
彼女が言ってたさっきのドウリョウさんとやらは、監視カメラを静止状態にできるそうなんです。
よくわかんないんだけど、うちのカメラを操るPCを乗っ取って、改ざんできるそうなんです。
監視カメラの映像をずうっと静止画にしておく、あるいは他の録画にすり替えることができるそうなんです」
桜田さんは、
「はあ~。
なんか、以前にそんな事件が海外であったってニュースをきいたことあるわね。
ハッカーが監視カメラを乗っ取るって」
と言った。
「いいわ。
じゃあドウリョウさんにも仲間になってもらいましょう」
オズボーンはこうも言った。
「桜田さん。
もう一人、仲間に入れるべき人がいます。
研究所所長の秘書です!」
桜田さんはいぶかしい顔をした。
オズボーンは説明した。
「あの人、夜中に所長の部屋に勝手に入れるんですよ。
しかもあそこの周りには監視カメラが一台もない。
所長のメールを見るのもいいけど、部屋に入った方が色んなことがわかるかもしれませんよ」
桜田さんが、
「そうなの?
でも、秘書さんが仲間になんかなってくれるわけないわよ」
と言うと、システム系女子は、
「私は、彼女の本社時代の秘密を知っています。
いえ、ハッキリと知っているわけじゃないんですが、多分、間違いないと思います。
私は彼女にブラフをかけられます。
彼女を脅かして仲間に引き入れることが多分できます!」
と答えた。
その”秘密”とは、前述したが、秘書が本社にいたときに男性社員に対してセクハラを繰り返していたことだ。
でも桜田さんは心配そうだった。
「脅して仲間にするの?
それは危険じゃないのかなあ?」
オズボーンは、すかさず言った。
「僕は脅さないでも秘書さんに頼むことができます。
以前からあの人とは仲がいいのです。
システム女子ちゃんが、なんとなく匂わせ脅しをかけて、一方僕は熱心に彼女を口説きます。
そうしたら彼女はきっと僕らの言う通りにしてくれると思います」

システム系女子は、こう思っていた。
(オズボーンと秘書さんが仲がよいのは容易に想像できるわ。
秘書はきっとイケメンのオズボーンに目をつけて、セクハラしようと狙ってて、近づいていたのね。
ああ、危ない危ない。
今はオズボーンには私という彼女がいるから、間違いは起こらないでしょうけど)
いや、オズボーンは秘書ともう二回もヤッちゃっているが。
しかしオズボーンよ。
ちょいちょいセックスしてる女を恋人に接近させるなんて、今回の件とは別の問題として、とっても危険なことなのではないか?
でも売れない漫画家オズボーンはもう、ジャーナリスト漫画家としてブレイクすることだけに夢中で、そっちの方には気が回らなかったのだった。
オズボーンは、桜田さんの『会社の不正を暴く』という計画を成功させることだけに夢中だったのだ。
オズボーンは次の日、ドウリョウさんと監視カメラについて打ち合わせをしたときに、彼がシステム女子に気があることを感じ取った。
三人で机を囲んで話をしているとき、ドウリョウさんは、システム女子の一挙手一投足を見つめていた。
彼女のちょっとした仕草、例えば席に座る仕草、伸びをする仕草、メモを取る仕草をチラチラ見ていた。
ドウリョウさんはオズボーンに向かってハッキングの説明するときにも、システム女子の反応をうかがっていた。
オズボーンは、ドウリョウさんに向かって「頭いいんですね」などと持ち上げ、「システム女子ちゃんとお似合いですね」などと言って、彼の気分を盛り上げた。
そして、その次の日、オズボーンはシステム女子の誘いを断り、研究所所長秘書とまたセックスをしたのだった。
次回に続く
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