生き残った三軍選手たち④
意図せずに研究所の秘密に近づく三流漫画家

前回までの話➡生き残った三軍選手たち① ② ③
国の北西部の山、南東部の山、南部の山が噴火し、人工物と混じわった。
その結果、有毒ガスが生成されて、一部の国民に被害を与えた。
このガスにより、国民の中の①トップレベルのスポーツマン、②トップレベルの美人、③トップレベルの美声の持ち主たちが亡くなってしまった。
国や研究機関による真剣なガスの分析の調査は続いていたが、その他、ネット民のアホみたいな陰謀論もあった。
ある企業が火山をわざと噴火させた、あるいは故意に企業が毒ガスを混ぜたという陰謀論だ。
災害にあって国民が大変なこういうときに、つまらぬ陰謀論を騒ぎ立てる人たちのことは、漫画家オズボーンは元来大嫌いだったが、漫画の題材にするにはいいな?思った。
三つの火山のそばには、いずれもオズボーンの父親が勤める大企業グループの研究所があったのだ。
ネット民は、南東の火山のそばにあった大きな大きな研究所のことしか話題にしてなかった。
しかし、北西の火山のそばの小さな小さな研究所で警備のアルバイトをしていたオズボーンは、『これは面白い』と思った。
三流漫画家のオズボーンは、創作意欲に燃え、久しぶりに面白そうな漫画を描けそうだと思った。
でも創作に着手する前に、まずオズボーンは、空想した。
「俺のこれから描くこの漫画がもしものすごく売れちゃったりしたらどうしよう?
印税がっぽり!
そして女にもてもて。
あと色んなところからインタビューとかされちゃったりしたら、どうしよう?」
妄想は、オズボーンの頭の中で広がって行った。
~~オズボーンの妄想~~
テレビ番組にオズボーンは呼ばれる。
「本年度メチャクチャ売れたコミック『研究所の陰謀』の作者のオズボーン先生に本日はお越しいただきました!」
オズボーンは、照れながらお辞儀する。
このときは、いつもの無精髭を剃って、小ぎれいにして、自分が一番イケメンに見えるスーツで出演しよう。
いや、うっすら髭が生えてた方が、逆にワイルドっぽくてイケメンに見えるかな?
スーツじゃなかったら、どんな服装にしようかなあ。
テレビでは、今回の研究所の話のことや、過去の作品のことや、その他にもきっと個人的な質問も色々されるに違いない。
愛読書とかについてきかれたらどうしようか?
正直に言うか?
それとも、ちょっと小難しいカッコつけた本にするか?
今のうちにカッコイイ本、読んどくかな?
そして、色々な質問の最後にオズボーンは言う。
「今回のこの漫画は、実はネット民の妄想からヒントを得て描いたんですよ」
「へえ!それは意外ですね」
テレビに出た次の日から、若い子たちの間では、
「オズボーンって、割とイケメンだね」
と噂になる。
昔、俺をフッた女たちは、
「ああ、オズボーンと別れなければよかった」
と、後悔する。
もしかしたら女優さんから、
「ファンなんです。オズボーン先生、おつきあいしてください」
と迫られる。
~~オズボーンの妄想終わり~~

バスが研究所に着くまでの短時間の間に、オズボーンはこんなにたくさんアホな妄想をしてしまった。
プロ野球アナコンダズの二軍・三軍選手や、整形美人タレントのK子ちゃんや、無名タレントアリスちゃんが、少しでも上を目指して、技を磨いたり、地道に頑張っていたりするときに、このオズボーンは、なんという”捕らぬタヌキの皮算用”野郎なんだろうか?
いや、オズボーンにも漫画家としてちゃんと頑張ろうと思っている部分もあった。
オズボーンは研究所の警備のアルバイトをしていたが、でも、研究室ではなく、主に事務所棟や、外の敷地を警備していた。
研究室は見たことがなかった。
「研究所の漫画を描くとなったら、ちゃんと研究室の中も見ておかないと、リアリティあるものが描けないよな」
とオズボーンは思った。
オズボーンは、研究所に着くと警備の主任に向かってお願いした。
「研究室の中ってどんな風になっているんですか?
僕、一度見学してみたいんですけど」
しかし、研究室の見学は許可されなかった。
「見学は無理だ。
見学じゃなくって、研究塔の中が見たいなら、オズボーン君も、ちゃんとした警備の資格を取ってごらん。
そうしたら研究塔の内部の方の警備を任せるよ。
チャレンジしてみるか?
でもこちらの企業からの要望で、他にも色々な資格が必要なんだけどさ」
(うう。すみません。
そこまでしてまで、警備の仕事に命を捧げたいわけではないんですが)
と、オズボーンは思った。
オズボーンは、次に自分の父親に頼んでみた。
そもそもこの企業に勤める父親のコネで、オズボーンは小さな研究所の警備のバイトをさせてもらっていたのだ。
「俺、研究室の中が見たいんだ。
親父から会社の誰かに頼んでもらえない?」
しかし、父は、息子からするといささかなショックな発言をした。
「そんな権限、わしにはないわ!
言いたかないけど、わしはあの企業の中で三軍選手なんだ。
お前を警備のバイトにねじ込んでいただけただけでせいいっぱいだわ!!」
しょうがない。
どうしても研究室の絵をリアルな描写で描きたかったオズボーンはアプローチの方向を変えた。
オズボーンは、研究所に勤める女性社員を次々とナンパしていった。
女性社員と仲よくなって、なんとかこっそりと研究室内を見せてもらおうと思って。
オズボーンにとって、それは割と容易だった。
この研究所に勤める社員さんや、出入りする取引企業さん、出入りするお弁当屋さんなど全てを敷地内に入る門のところでチェックする仕事は、オズボーンが常日頃やっていたからだ。
そしてオズボーンは、とても芸能人になれるようなレベルではないが、一般人の中ではそこそこイケメンだった。
オズボーンは、自分の本業の漫画も描かずに、警備のバイトのシフトをバシバシ入れさせてもらい、女性社員のナンパにいそしんだ。

管理職の女性社員をナンパすることに成功したオズボーンは、ある深夜にこっそり彼女に研究塔の中に誘導された。
その人は、研究室のある建物の内部を案内してくれた。
しかしそこは廊下をサーッと素通りされて、女性が連れてってくれたのは、オズボーンがイメージしていたビーカーとかフラスコが並ぶような研究室内ではなかった。
女性社員は、オズボーンを研究所の所長の部屋に誘導したのだった。
この人は研究所所長の秘書の仕事をしていた。
その部屋にあったものはオズボーンが昔から映画とかドラマとかでもよく見かけるやつだった。
大きなデスクと、ゆったりした椅子。デスクに少しだけ積まれた書類。
広い部屋の真ん中には、ローテーブルと大きなソファ。
「こんなんテレビでよく見るわ!
俺が見たいのは、こういうとこじゃないんだけどな」
しかし、彼女は、ソファの方に向かいながら、スーツの上着を脱ぎながら言った。
「何してるの?
早く来てよ」
ソファに座ると、秘書は今度は自分のブラウスに手をかけた。
「ねえ~」
ブラウスのボタンを一つずつはずしながら、秘書はエッチそうなブラジャーに包まれたおっぱいを見せて来た。
「早くう♥」
「う、嘘でしょ?
こ、ここでするんですか?
そ、それは、いくらなんでもまずいんではないですか?」
オズボーンは、積極的な秘書にたじろいだ。
すると秘書は、言った。
「あなた警備の人でしょ?
知らないの?
所長が嫌って、この部屋やこの付近には監視カメラつけてないのよ」
もう研究室の絵を描くことを忘れて、オズボーンはエッチな秘書に飛びついた。
********
(セックスはよかったけど)
と、オズボーンは思った。
(見たかった部屋はここじゃないんだよな。
立派なデスクやソファなら、今でもそらで描けるもん。
俺が描きたいのは、研究室の絵なんだよね)

アナコンダズの三軍投手だった山村が、いよいよ公式戦のベンチに入る日が来た。
「試合の流れによっては、途中から出てもらう」
とピッチングコーチに言われたという。
試合の日は朝から、山村の彼女のビビは自分のマンションで震えていた。
「今日の試合、怖い怖い怖い」
実は、オープン戦でも山村は何回か登板したが、四球や死球の連続だった。
打たれはしなかったけど、球が荒れていた。
「見たくない見たくない」
ビビはその日仕事が休みだったのに、山村が出そうな試合をテレビやニュースで見たくなかった。
「今から眠っちゃいたい。明日の朝まで眠って、朝になってから試合の結果を知りたい」
と思った。
そのときスマホのLINEが届くお知らせの音がした。
タケシ君からだった。
「ビビさん。今日、アナコンダズの試合行きませんか?」
実はこの前、ビビはアナコンダズの開幕戦を見に行って、タケシ君とお父さんと知り合ったのだった。
開幕戦は山村は出ない予定だったので、ビビは安心して試合を見に行ったのだった。
球場で、二軍から来たバッターのレプリカユニを着てはしゃぐお父さんと、山村のタオルを持ったタケシ君に出会った。
大はしゃぎのお父さんは球場でも目立っていた。
しかしビビは、その隣で山村のタオルを首にかけているタケシ君に目を止めた。
攻守交替のときにお父さんが席を外したときに、ビビは思わず、タケシ君の席に近づいて声をかけてしまった。
「あなた、山村のファンなの?」
タケシ君は答えた。
「うーん。
僕は実は、まだあんまり山村投手のことは詳しくないんですけど、子供のころ甲子園ではよく見た記憶があります」
「そうなのね」
ビビは微笑んだ。
「私もあの人のこと、あんまり知らないんだ。
私なんて甲子園さえも見たことないんだ」
タケシ君にそうビビは言った。
「でも山村好きなのよね」
タケシ君は不思議そうにビビを見つめた。
そのとき、ビールを買いに行っていたお父さんが戻って来た。
「あらあ?
お姉さんもアナコンダズファンですか?」
すでに酔っていたお父さんは、ビビにペラペラ話しかけて来た。
「女性一人で見に来たの?
珍しいねえ。
コアなファンだねえ」
そして、
「ぜひお友達になりましょう。なりましょう。
でも俺はだめだ。
タケシ、おまえ、お姉さんとLINEの交換しとけ」
とお父さんは開幕戦の日に言ったのだった。
そして今日、山村の登板のありそうな日の朝、タケシ君からLINEが来た。
ビビはタケシ君にLINE電話をかけた。
タケシ君は電話で言った。
「今日のチケットは前から買っててお父さん、いえ父とアナコンダズの試合に行くはずだったのですが、父が急にいけなくなって、代わりにビビさん行きませんか?
うちのお母さん、間違った! 母もそれがいいって言ってます」
そのあとタケシ君のお母さんに電話を代わった。
ビビは、球場に向かった。
怖くてしょうがないけど、山村の登板をしっかり見届けようと決意した。
あの男の子、タケシ君と一緒だったら勇気を出して見られるかもしれない。
そう思ってビビは球場に向かった。

オズボーンは、この前は、研究所の所長秘書のナンパに成功してしまったが、彼女は”文科系”の人だった。
オズボーンが見たかった研究室の中が見られなかった。
「研究職の女性をナンパしないとダメだ」
研究所の敷地の周りをグルっと囲む塀。
塀の南にあたる正門の方に、いつもオズボーンはいた。
正門から入る社員の顔は大体わかるし、たまにおしゃべりすることもあった。
「メガネしてる黒髪の彼女。桜田さん。
あの人は研究職の人だ。彼女をナンパしよう」
オズボーンは、門で桜田さんが出勤してくるのを待った。
しかし、桜田さんが門の近くに来たときに、その後ろから所長秘書の彼女もやって来てしまった。
にこやかに手を振りながら、所長秘書はやって来た。
オズボーンも秘書に対して笑って手を振り返さないといけなかったので、研究職の桜田さんに声をかけることができなかった。
次の日、オズボーンは、主任に命じられて西側の駐車場の警備を行った。
駐車場にゴミを捨てる人がいるのでそれを取り締まれという任務だった。
この研究所は田舎にあったので、車で通勤してくる社員もいた。
オズボーンが駐車場を歩いていると、そのとき小さな赤い車が走ってきて停まった。
車からは、身体は肉感的なのに顔が可愛らしくメガネをかけた女性が出て来た。
(あ!あのコ、研究職っぽい!)
オズボーンはその女性と仲よくなることに成功した。
声をかけてから、すぐに仲良しになり、仕事のあとにたびたびお茶をするような仲になった。
しかし、オズボーンが引っ掛けた彼女は、今度は、なんとシステム部門の女子だった。
かなり親しくなったあと、オズボーンは研究室を見たいとおねだりした。
そして、オズボーンはやはり、研究室の中には入れなかった。
この前、所長秘書とセックスしたようなゆったりしたソファさえもない部屋しか見せてもらえなかった。
システム部門の女子には、コンピューターがただただ並ぶオフィスに、深夜オズボーンは案内された。
(ま、いっか。
この子はとても可愛い。
今日はエッチできる。
それでよしとするか)
とオズボーンは思った。
しかし、その女子はエッチもさせてもくれなかった。
オズボーンをコンピューターの並ぶ部屋に連れてゆくと、オフィスによくある回転椅子のひとつをガガーッと滑らせてくれただけだった。
「それに座って!!」
昨日までオズボーンに優しかった女子は急に冷たい態度になっていた。
そして、女子はオズボーンの前に脚を組んで座ると言った。
「あんた記者?」
昨日まで、”あなた”と言ってくれたのに、急に”あんた”呼ばわりになり、かつそんな不思議な問いかけをしてきた。
そのシステム女子の態度の豹変ぶりや言動の意味がよくわからないまま、オズボーンは答えた。
「記者ってなに?
なんのこと?
君は、いつも駐車場の西門を利用しているから僕のことを知らなかったみたいだけど。
僕はもう長いこと、正門の方で警備のバイトをしているんだよ?」
「大したもんね?
最近の記者は。
警備員として潜入してまで近づいてくるんだ」
オズボーンはますます???だった。
システム系女子は言った。
「あんたら週刊誌の記者は、企業の秘密を暴くのに貪欲ね!」

次回に続く
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