最終回・パパ友殺人事件⑦
私が”人間失格”だった件

これまでの話はこちら➡パパ友殺人事件① ② ③ ④ ⑤ ⑥
●私の仲がよかったパパ友の友野さんが殺害された。なぜか私の名刺を握りしめて。
●私は、友野パパの殺害時刻に、不倫相手の上司と一緒にラブホにいたので、自分のアリバイを話すことができなかった。
●友野パパが殺された場所も、そのラブホ街で、凶器が果物を切る包丁だったらしいということもわかってきた。
●私は、警察にも、友野ママにも、ネット民にも疑われているようだったし、一方、友野パパの昔の浮気相手のひよ鳥ひなこの夫婦も警察に疑われているようだった。
●友野ママのことをいったん疑った私。しかし、ここに来て私は、自分の夫を疑い始めていた。
一方、私の息子は複数犯人説をとなえはじめていた
ひよ鳥家の物置き倉庫に、血のついたタオルを入れたのは、私の息子、みつおだった!
息子は、今回の事件は複数犯の犯行だと思ったそうだ。
だから、彼らの仲間割れを誘発することをやってみたそうなのだ。
今日、絶対に犯人たちは動くはずだと息子は言った。
だから、私に、今日のひよ鳥さんの旦那さんの動きを探れと言うのか。
いや、それは事件解決にとってはいいアイディアかもしれないけど、私はそんなことより、悪戯タオルによって自分の息子が何か罪に問われることが恐ろしいし、イヤなんですけど?
私は、自動車を運転しつつの、スマホのハンズフリーからの息子の声をきいた。
息子はは言った。
「お母さん。大丈夫。
僕は未成年だから。
大した処罰にはならないから」
その息子の言葉に更にぞっとした私だった。
が、しかし、息子の捨て身のチャレンジを無駄にしてはならない。
私は、ひよ鳥の旦那の勤め先の会社に車を走らせた。
******
ひよ鳥の旦那の会社の前で張り込んでいたら、お昼に彼は会社のビルから出て来た。
そして、彼は繁華街に向かった。
繁華街の中にある、ランチも食べられるという巨大カラオケ店に彼は入って行った。
私も、急いで後を追ってそのカラオケ店に入った。
しかし、初めて来るこの店の入店の手続きに、私はものすごく時間がかかってしまった。
私は出遅れてしまった。
私は一度、自分があてがわれた5階の個室に入ってから、ひよ鳥の旦那の部屋を探した。
カラオケ店のそれぞれの個室のドアには、小さなガラス窓がついていて、中を確認することができた。
私は、随分時間をかけて、大型カラオケ店の一つ一つの個室をのぞき込み、ようやく、ひよ鳥の旦那の入った2階の個室をつきとめることができた。
ドアの窓からのぞくと、ひよ鳥の旦那は、目の前のテーブルのランチに口もつけずに、もちろんカラオケもせずに、何かイライラしたような面もちで座っていた。
私は、その個室のそばにあった女子トイレにいったん潜んだ。
そして、トイレのドアを少し開けて、彼の個室の入口を見張った。
誰か、綺麗なワンピースの女性客が廊下の向こうから歩いて来た。
私は、あわてて女子トイレにひっこんだ。
友野ママなのか?
そして、私は数秒後に、もう一度トイレのドアを開けて廊下の様子をうかがった。
さっきの女性客はいない。
私は、廊下に恐る恐る出た。
私は、ひよ鳥の旦那の個室に近づいた。
すると、また廊下のどんづまりのエレベーターから、今度はスーツ姿の男性客が降りてくるのがみえた。
私は、また急いで女子トイレに逃げ込んだ。
私の夫なのか?
犯人として警察に疑われそうな友野ママも、ひよ鳥の旦那もしっかりしたアリバイがあった。
一方、私の夫は、警察に疑われる要素はそもそもなかった。
夫のアリバイについては、警察も、私も、息子も誰も調べていない。
複数グループの中の、実行犯は私の夫?
ひよ鳥の旦那と私の夫は仲間だったのか?
そして、夫は昨日、ひよ鳥の旦那を私たち探偵団から守るためにあんなに一生懸命、ひよ鳥の旦那のアリバイを証明しに行ったのか?
ていうか、その夫の話自体も嘘かもしれない?
また数秒おいてから、私は女子トイレを出て、ひよ鳥の旦那の個室の前に向かった。
ドキドキしながら、私は、ひよ鳥の個室のドアの小さな窓から、部屋の中を見た。
三人の人物がいた!
部屋の中にいて、何か話をしていたのは、ひよ鳥の旦那と、見知らぬ男と見知らぬ女の三人だった。
私の夫も、友野ママもいなかった。
うわ!
そう言えば、これで、私はどうすればいいの?
この先のことは息子から指示をされてなかった。
もしひよ鳥の旦那が会ってたのが、夫や友野ママだったら、私が乗り込んでそれで終了~!なんだけど。
知らない人だよ。
この場合どうすればいいの?
そのときだった。
廊下を挟んで、ひよ鳥の旦那の個室の真ん前にあった個室から、一人の男が突然、飛び出して来た。
「きゃあああああ!!」
私の後ろから突然迫ってきた人!
あまりのことに驚いて、私は悲鳴を上げてしまった。
「さっきから、一体何してるんだ?」
男は、私の肩を掴みながらそう言った。
そのとき、廊下の向こうの階段からも屈強そうな男が、もう一人、私めがけて走って来た。
一秒後、廊下の反対側のエレベーターから出て来た屈強そうな女も、私をめがけて、走って来た。
助けてええ!殺されるうう!
息子の言った複数犯とは、こんなに大量の複数犯グループだったのか???!

少しして、この事件の全貌が私たち家族にも明らかにされた。
カラオケ店の廊下で、私の目の前?後ろ?に飛び出して来たのは、ひよ鳥の旦那を追って来た刑事だったそうだ。
彼は、私と同じく、あの日のひよ鳥の旦那の動向をうかがっていたらしい。
ただ、私より随分手際よく、私より先にひよ鳥の旦那の個室のまん前の個室に、刑事は潜入した。(刑事なんだから当たり前だ!カラオケ店の受付けで、権力をふりかざして、ひよ鳥の旦那の部屋ナンバーをきけばいいだけなんだからさ!)
私めがけて走って来た屈強な男女は、別件で、ここ数日は、ひよ鳥の旦那の個室に一緒にいたあの男女を毎日のように尾行していた刑事だったそうだ。
刑事たちは、それぞれのホシを追っていた。
そしたら、ホシたちの個室の前に、私という怪しい謎の女がウロウロしていたというわけだ。
私は、短時間だけではあるが、警察に拘束された。
*******
ひよ鳥の旦那と一緒にカラオケルームにいた女性は、配偶者に不倫をされた人だった。
ひよ鳥の旦那とその女性は、配偶者の不倫に苦しむ人たちだった。
配偶者の浮気を許せないが、離婚を決断することもできない人たち。
そういった悩みを相談しあう人が集まるサークルで二人は出会ったそうだ。
このサークルは本来、不倫の被害者たちが励まし合ったり、新しい一歩を踏み出すための前向きの話合いをするための集いであったのだが、意気投合したひよ鳥の旦那と女は、後ろ向きに向かって行った。
ひよ鳥の旦那と女は、配偶者ではなく、配偶者を寝取った側を殺すことにしたそうだ。
二人は、綿密に打ち合わせをし、計画を立てた。
二人で協力して、交換殺人をした。
最初は、女のご主人の浮気相手を殺した。
次に、ひなこさんを寝取った友野パパを殺した。
しかし、念には念を入れて、二人のアリバイはいつもちゃんとしておく必要があったので、実行犯として、お金で、まったく関係ない男を雇ったとのことだった。
友野パパが私の名刺を握って死んでいた理由は、いつか夫が明確に説明してくれた通りだった。
実行犯の男は、友野パパを殺したあと、友野パパの持ち物の中にあった適当な物を手に握らせて、『操作を攪乱しようとしただけ』だったそうだ。
それが私の名刺だった。
突然私の家からなくなった果物ナイフのことは、私の考え過ぎだった。
我が家の果物ナイフの紛失は、普段からキッチンの整理や掃除をちゃんとしていない私のせいだった。
数週間後、うちの果物ナイフは、ホコリまみれで、食器ダンスと電子レンジの置いてある棚の間の隙間から発見された。
しかもフルーツナイフの意味が違った。
私が失くしたのは、果物を切るときの小型包丁。
調理に使うフルーツナイフ。
一方、友野パパが殺された凶器は、ディナーの場面で、デザートを食べるときの食事をするテーブルで使うフルーツナイフだった。
いわゆる”カラトリー”の方のデザートナイフだった。
調理用具の”果物包丁”ではなく!
ひよ鳥の旦那は、ひなこさんのスマホから友野パパをメールで誘いだし、ラブホ街もある南町の繁華街の中に唯一ひとつだけあった、ちゃんとしたホテルに友野パパを呼び出したらしい。
ひなこさんと、友野パパの逢瀬はいつも、そのちゃんとしたホテルでだったらしい。
私も思い出した。
そうだ。
南町の繁華街には、ひとつだけ、やや少しだけ格の高いホテルがあった。
やや格の高いそのホテルは、フルコースのルームサービスのあったホテルだった。
その、やや格の高いホテルの個室で、浮気中のひなこさんと友野パパは、たびたびルームサービスのちゃんとしたディナーを食べたんだそうだ。
二人は、ホテルの個室の中で、レストランみたいなお食事をしたあと、エッチなことをしてたようだ。
ひよ鳥の旦那は、そういうシチュエーションにこだわって、友野パパを殺したかったらしい。
ホテルの個室のテーブルに前菜を食べるフォークや、スープを飲むスプーンや、メイン料理を食べるナイフとフォークや、デザートを食べるナイフなどのカラトリーを並べて、実行犯の男は、友野パパを待った。
そして、実行犯の男はデザートのフルーツを食べるときのフルーツナイフで、友野パパの首を突きさした。
いい加減にしろよ、警察!!
私のことを疑っていた警察!
大バカものッ!!
やや格の高いホテルでひなこさんと友野パパは、ディナー食って浮気してたんかい?!
こちとら、超お安いラブホで超時短でセックスしたてんだよっ!!
全然、シチュエーション違うやないかい!
最初に私を会いに来た刑事は、後に私に教えてくれた。
ひよ鳥の旦那が、友野ママを犯罪仲間に誘わなかった理由は、ひよ鳥の旦那いわく、
『友野の奥さんは、不貞を働いた友野のことも、浮気相手のひなこのことも許してしまうような心が広い人だったので。
自分の仲間にはなってくれないとわかっていた』だ、そうだ。
私は、ひよ鳥夫婦と友野夫婦の四者会談の話を思い出した。
ひよ鳥の旦那は、ひなこさんの浮気に怒り狂っていたのに、友野ママは許してやりましょうと言っていたという。

でも私には謎があった。
私の夫は、私の浮気を知っていた。
なぜ夫は、それを放置していたのか?
息子が寝たあとに私は夫に確認した。
いつかみたいに、息子が私たち夫婦の会話を盗み聞きしないように、息子がちゃんと寝たのを確認してから、私は勇気を出して、この疑問について夫にたずねた。
夫は言った。
「僕は君に、殺人犯だと疑われてたのか?
驚いた。
こっちが疑ってないのに、君は僕を疑ってたんだ?
君は僕の机を見たんだね?
君の浮気を僕が知っていたことを知ったんだね?」
私は言った。
「もう、私はあの男とは別れたわ。
でも、なぜ?
あなたは私の浮気を黙認していたの?」
夫は、語った。
「僕は、苦しんだ。
君の浮気を知って、苦しんで苦しんで、悩んだ。
ずっと悩んでいた。
どうしようかと思った。
何週間も何か月も、悩んだ。
でも、散々悩んだ末に、結果、君を許すことを選択した。
最近は、会うのをやめたみたいだったし。
パート先の上司さんと君は」
私は驚いて微動だにできずに、ただただ夫の顔を見つめるだけだった。
そして、夫は、
「昔からおてんばな君が心配だったり、それが魅力的だって言っただろ?
惚れた弱みかな?
それに君は、みつおの良い母だったから。
仕事が忙しい僕ができないこと。
僕の大事な息子を大事にしてくれ、スポーツの才能を伸ばしたリ、一生懸命育ててくれる女性だったから。
だから、僕は君と別れることは考えられなかった」
と、言ってくれた。
しかし、夫はその後、もう一言言った。
「でも、今回、僕が君に殺人犯だと疑われたとは思わなかった。
それは本当に心外だね。
少し考えさせてくれ
・・・・・・
今までは、どんなに恨んでも、君と別れることは僕には無理だと思っていた。
どんなことをされても、僕は君とは別れられないと思った。
しかし・・・・・・
僕が君に殺人犯と疑われていたと知って、考えが変わったよ。
本当に君と別れるべきかどうか、今、僕には真剣に決断するときが来たようだ
・・・・・・」

真犯人が逮捕されたあと、私は友野ママに会いに行った。
私がいつかの非礼を謝ったあと、友野ママは話してくれた。
「みっちゃんママ。
私は、あなたがパパを殺したなんて考えたことは、一度もなかったわ」
私はたずねた。
「私の名刺をパパが握って死んでいたのに?」
友野ママは笑った。
「そのことは私は、警察には真っ先に否定しておいたわ。
みっちゃんママは、絶対に殺人犯ではありませんって。
みっちゃんママが殺人なんてする人ではないこと、私はわかってたもの。
だって、あなたは基本的にいい人なんですもの。
少しおバカさんなだけで」
友野ママは、そう言ってくれた。
「じゃあ、なぜ、私のことを非難したの?
まるで、私を疑うかのように?
うちの家族が三人で、一郎君と二郎君をうちで預かりたいって言ったときも、『あなたたちは、うちの息子達までもどうにかしたいの?』って非難したわよね?
私がおじいさんとおばあさんの家に一人で行ったときも『あなたたちは、いつもいつも、どこまでも私を傷つければ気が済むの?』って言ったわよね?
アレはなんだったの?」
と、私は、自分の疑問を口にした。
友野ママは答えた。
「ごめんなさいね。
みっちゃんママがうちのパパを殺すわけはないと信じてた。
だからこそ、あなたに腹が立ったのよ」
私は意味がわからなかった。
「どういうこと?
信じていてくれたのに?
なぜ、私に腹がたったの?」
友野ママは悔しそうに、言った。
「お馬鹿さん!!!
言いたくないけど、教えてあげるわ!!」

友野ママは、私の思ってもみていなかったことを語りだした。
「うちのパパは、みっちゃんママ、あなたのことが大好きだった!
ひよ鳥ひなこさんとの浮気で懲りたパパは、二度と浮気はしないと思ったけど。
でも、というか、本当は、あなたに対しては片思いだったので、パパは行動に移さなかっただけ。
移せなかっただけなのよ。
だって、明らかにあなたの目は、いつもどこか遠くを見て恋する女の目だったもん。
ご自分の旦那さんにで対してでもなく、うちのパパに対する目でもなく。
みっちゃんママには、どこか私たちの知らない他のところに恋人がいるんだろうなあ?と私は思ってたわ。
うちのパパも多分、それをわかってた。
だから、うちのパパはあなたを誘えなかった。片思いだったから。
みっちゃんの送り迎えに協力するとかそういうことで、あなたに貢献することを、うちのパパは、小さな喜びとしていたのよ。
パパは、うちの車に落ちていたあなたの名刺をいつも、嬉しそうに眺めてたわ」
私は驚愕した。
友野ママは、続けた。
「うちのパパはあなたの名刺をお守りみたいにいつも持ち歩いてたのよ。
紙がヨレヨレにならないように、綺麗にパウチまでして大事に、いつもあなたの名刺を持ち歩いてたのよ。
だから、誰か何者かにパパが殺されたときだって、いつもあなたの名刺をやけに丁寧に持ち歩いていたパパは、それを利用されても不思議じゃないって、私は思ったのよ。
でも、それが悔しかった。
そして、警察に対しても、そんな辛いことを私は説明しなければならなかった。
あなたの疑いを晴らすために、『私の主人は、みっちゃんママの大ファンだったんです』ってね」
友野ママは、悔しさ?悲しさ?に震えながらそう言った。
私は、同情や、感謝や、驚きや、色々な感情に震えて、何も言えなかった。
友野ママは話を続けた。
「私にとっては、若いひよ鳥ひなこと火遊びでセックスを繰り返してたことよりも、セックスもできないのに精神的にみっちゃんママのことを慕っていたパパを許せなかったわ。
そしてパパが死んだあと、あなたは私に同情して、一郎と二郎を預かりに来た。
あなたが、『いつも友野家の男たちに好かれている私が何かお役に立ちましょうか?』って、上から目線の顔をしてるようにみえたわ。
あなたたちは、家族ぐるみで、私の息子たちまで連れて行ってしまい、あなたのとりこにしようとしているのか?と私は、怖くなったわ。
それで、ありがたい申し出に来てくれたのに失礼なことを言ってしまったの。
ごめんなさい。あのときは私もパパが亡くなったばかりで、混乱してたのよ」
数分間、私も友野ママも無言だった。
やがて、友野ママは、再び口を開いた。
「私は、みっちゃんママ、あなたのことを殺人犯だとは一回も思ったことなかったし、私は、自分が殺人犯でないことも、もちろん知っていた。
なのに、あなたは、私のことを殺人犯だとののしった!
みっちゃんママ? あなたはこんなに傷ついて大変な私のことを殺人犯呼ばわりした!
だから、私は、あなたとパパのことを言ったのよ。
『なぜ、あなたたちは、いつもいつも、どこまでも私を傷つけるのよ?』って言ったのよ」

私のことも、夫のことも、以前に意地悪をされた友野ママのことも、ずっと信じていた私の息子。
息子は、周りの人を信じているから、周りの人のことを疑わない。
だから、息子は真実に近づくことができた。
そして私の疑いをはらすべく、頑張ってくれた夫と保育園のママ友。
私の疑いを晴らすために、警察に対して、妻としては屈辱的なことを説明してくれた友野ママ。
それに比べて、私ときたら、自分のことを棚にあげて、周りの人を片っ端から疑って。
今後、私と夫の関係の修復は、無理かもしれない。
私と友野ママの関係の修復も、難しいかもしれない。
でも、しょうがない。
私の自分の責任だ。
私は二人に謝罪したし、これから自分は真摯な人間に生まれ変わることを誓ったが、二人が許してくれるかどうかはわからない。
パパ友殺人事件・終わり
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