パパ友殺人事件④
我が家の男性陣、活躍

これまでの話はこちら➡パパ友殺人事件① ② ③
友野パパが、なぜか、私の名刺を握った状態で殺されていた。
友野パパが亡くなった時間に、私は不倫相手と一緒にラブホテルにいた。
私のアリバイを証明してもらいたいと、私は彼に頼んだ。
しかし、受け入れてもらえなかった。
「もちろん、私もとことんまでは頑張るわ。
あなたとのことを白状しないでも済むように、頑張るわ。
何とかしのぐわ。
でも、でもね、万が一、最終的に本当に私の立場がまずくなったときには、助けてほしいの。
私が殺人者ではないって、証明してほしいの。
私とラブホテルにいたって言ってほしいの。
そのお願いをしているの」
でも、上司でもある不倫相手はひどいことを言った。
「無理だ。
約束できない。
君と一緒にラブホテルにいたことは、誰にも話せない。
それに、君はどうしてパパ友の殺人を疑われているんだ?
君は、そのパパ友ともヤッたことあるんじゃないのか?」
私は、この男との別れを決意した。
******
私は自分勝手な女だ。
上司に見切りをつけてから、私は、これからは夫のことを大事にしようと決意した。
友野パパみたいに、家庭のことや息子の教育に全く協力してくれない夫に対してずうっと不満に思って、こっちもないがしろにしていたけど。
今回のことが起きてから、夫は何だか頼りになる。
やっぱり頼りにすべき、大事にすべきは、結婚までした男だけだ。
ひよ鳥夫妻に会いに行って訊いた内容を私が話すと、夫は言った。
「君の行動力には本当に感心するよな」
夫は笑顔を見せた。
「おてんばなところが、昔から心配だったり魅力的だったりしたけど、やっぱり君はすごいと思うよ」
夫のその言葉に私は、嬉しくもあり恥ずかしくもなってしまった。
「君の話によると、やはり、ひよ鳥ひなこは怪しいな」
「そう?
なんかウソはついてないような印象だったけど」
私と同じ立場、つまり、色々偶然が重なったために警察に疑われている彼女に対して、同情しはじめていた私だった。
でも夫は言った。
「なんである朝突然、家の玄関のドアが壊れるんだ?
そんなことあるか?
君、自分の人生で一回でもそんなことあったか?」
「確かに。
私の実家でも、ここの家でもそんなことなかった。
でも、雪国では、大雪のときにそんなことになるでしょ?
あと、たまになんだけど、湿気の多い地方で、湿気のせいで木製のドアが圧縮だか膨張だかしちゃって、ある日急に閉まらなくなっちゃうことがあるって話もきいたことがあるのよ。
だから、私はその点については不思議に思わなかったんだけど」
そう私が言うと、夫は、
「ここは東京だ」
と言った。

「ひよ鳥ひなこが、自分でわざとドアを壊して、会社を休む理由を無理やり作り、そして、修理屋を微妙な時間に呼んで、自分のアリバイを作ろうとしたとは思わないか?」
ああ、なるほどと私は思った。
「その女が、君に協力的だったことも不思議だ。
芝居じゃないか?
情にうったえて、友野ママの親友である君を仲間にして、何か警察の動きをキャッチしようとした」
親友という言葉に、私は胸がズキンと痛んだ。
ひよ鳥夫妻も、私のことを友野ママの親友だと信じてくれたけど。
友野ママは今や、私の親友ではない。
友野ママは、私のことを完全に疑っている。
いや、もしかしたら以前から、友野ママから見たら、私は親友ではなかったのかもしれない。
私は、いつも友野夫妻に頼っていたことを反省した。
いつも私は二人の車に乗せてもらっていたお邪魔虫だった。
そして、この前の息子の告白などをきくと、本当は、友野ママは、前から私のことを気にいらなかったんじゃないか?
学校もスポーツチームも一緒で、しかも、うちの息子がチームのエースだったので、嫌でも我慢して私と付き合わないといけなくって、それがもしかしたら、友野ママには辛かったのではないか?
だから、今回、旦那さんが私の名刺を握って死んでいたことを知ってから、今までの積年の恨みが一直線に私に・・・・・・。
そんなことを私が考えていると、夫は言った。
「君は甘いんだよ。
ひよ鳥ひなこは、とても”黒い”よ。
ダブル不倫をするような図々しい女なんて、僕からしたらどんなに嘘をつくのがうまいかわからないよ。
そんな女なんて、反省したふりや、自分が弱って困っているかのような芝居は得意だろう?
君を仲間に引き入れるための芝居だよ」
自分もダブル不倫をしていた私としては、胸がズキンと痛んだ。
でも私もひとつ、自分の意見を夫に言った。
「でもさ、ひなこさんが友野パパを殺す動機は何なの?
仮に友野パパと別れたことが本当だとしたら、殺す動機はないし。
もしも、今だにこっそりと不倫を続けていたとした場合も、殺す動機もないし」
「だから君は甘いんだよ」
と、夫はもう一度言った。
「不倫するような男なんて、浮気相手の女のことなんかはただの性処理の道具としか思っていない。
ひなこと、友野パパがどうしてずっと上手く行っていると思うんだ?
不倫同士のどろどろした関係。
どんな発火点があるかわからない」
夫のこの言葉に再び、私の胸はズキンと痛んだ。
今まで散々甘い言葉を私に言ってきたくせに、そして、私の身体を散々むさぼったくせに、いざ私のピンチのときには助けてくれなかった上司。
その上でひどい言葉を投げかけて来た上司。
私も確かに今は不倫相手だった上司のことを、今は恨んでいる。
自分の手で殺したいとまでは思わないけど、『あいつ、●ねばいいのに!』とは、今思っているのは確かだ。

私たち夫婦が、深夜に自宅の居間でそんなことを話をしているときに、突然、息子のみつおが飛び込んで来た。
私と夫は驚いた。
とっくに寝たと思っていたパジャマ姿のみつおが、居間のドアを開けて登場したのだ。
「お母さん、お父さん甘いよ」
と言いつつ。
私と夫は、こんな深夜まで起きていて、居間の外で私たちの会話を盗み聞きしていた息子をたしなめようとした。
「何してるんだ、みつお。こんな遅くまで」
「今、何時だと思ってるの?」
しかし、息子は言った。
「たまには、僕の意見もきいてよ!!」
私と夫は驚いた。
「さっきのお父さんとお母さんの話きいてて、今まで僕が教えてもらってなかった情報も色々得られて、僕、ひとつ気づいたことがあるんだよ!」
私は、居間のソファの上に置いてあった毛布でパジャマ姿の息子をくるんで、ソファーに座らせた。
「お父さんとお母さんは、どうして犯人の動機のことばっかり考えているんだよ。
だからわからないんだよ。
もっと犯行の起こったときの現実の状況のことを考えないと」
思わず、私と夫は笑った。
少年探偵気取りの息子だった。
でも笑ったあと私はドキリとした。
犯行の起こったときの状況は、私たちは、ほとんど警察に教えてもらっていない。
私たち家族がきいているのは、友野パパが私の名刺を握って死んだことだけだ。
息子はそのことを言っているのか?
私は息子にまで疑われているのか?
でも、息子は私の想像と違うことを言った。
これだけ情報が少ない中で、息子は推理したようだ。
「お父さんは、さっき、雪国でも湿気の多い地域でもない東京では、ある朝突然に玄関のドアが壊れることはないって言ったよね?
だから、ひよ鳥ひなこさんが嘘を言っているって言ったよね?」
私と夫は黙ったまま、息子の話の続きをきいた。
「どうして、そこでお父さんとお母さんはわからないのかな?」
「え?」
「ひよ鳥ひなこさんを犯人にしたい人が、夜中にドアをわざと壊した!
それで、ひなこさんのアリバイを失くす方にもっていったっていうことに、なぜお父さんたちは気づかないの?」
息子の説明は続いた。
「まず、ひよ鳥さんのおうちのドアの状況を調べるのが先決だと僕は思う。
家のドアが壊れたのは、ひなこさんを陥れることを考えた人が、やったことなんじゃないの?
家のドアの状況を修理屋さんの証言も含めて、そこを確認することが先決だと思う」
「まあ!」
私は感動の声を上げた。
「よくそんなこと考えたわね」
息子は言った。
「僕はずっと思っていたんだよ。
お母さんの名刺をなぜ友野パパが握っていたのかどうもわからない。
お母さんは、絶対に殺人なんてしない人だ。
だから、これは絶対にお母さんを陥れようとした人が仕組んだことに違いない、と僕は思ったんだ。
だから、ひなこさんの場合もそうなんじゃないかなって」
私は、思わず毛布にくるまれた息子に飛びついた。
そして抱きしめた。

「そうか。
そこはお父さんは気づかなかった」
と夫は言った。
私は息子を抱きしめながら、考えた。
もしかしたら、夫は、私を少しだけ疑っていたのか?
だから、息子みたいな発想には至らなかったのか?
夫は言った。
「じゃあ、犯人はひよ鳥の旦那かもな」
私と息子は抱き合ったまま、夫の方を見た。
「ドアが壊れたときに、修理を頼む電話をした人は誰なんだ?
そこも確認しよう。
ドアの修理会社に電話したのは、もしかしたら旦那なんじゃないのか?
わざと修理を微妙な時間に来るように頼んでおいて、ひなこを陥れようとした!」
と夫は言った。
「ひよ鳥の旦那は今だに、友野パパを許していなかったんだよ。
そしてひなこさんのことも許せなかった。
君の話だと、ひなこさんは、とても怯えたような、謙虚な態度だったんだろ?
旦那さんの言葉ひとつひとつに怯えて、頭を下げたり、顔を両手でおおったり。
不倫をした弱みがあるひなこさんは、旦那さんの言いなりだったのかもしれない。
もしかしたら、そんなひなこさんのスマホを支配して、ひなこさんのフリしてメールでもして、どこかに友野パパを呼び出すことなんて旦那さんには可能だったかもしれないだろ?
そこで殺した」
息子は言った。
「まずひよ鳥さんの玄関のドアを調べること。
そして、同時にその日の旦那さんのアリバイをきっちり調べよう」
夫と息子は、ひよ鳥さんの旦那さん犯人説で盛り上がった。
でも私は疑問を感じた。
じゃあ、私の名刺の件はどうなるの?
ひよ鳥さんの旦那さんが、私の名刺を手に入れることは不可能じゃないか?
私は、我が家の男性探偵陣に向かって、その自分の疑問について質問してみた。
すると夫は明確なことを答えてくれた。
「ひよ鳥の旦那が友野パパを殺したあと、持ち物の中にあったもの見て、そこにあった君の名刺を出して、適当に握らせたんじゃないか?」
息子も続けて言った。
「そうだ!
操作を混乱させるためにお母さんは利用させられたのかも!」
「明日から具体的に、証拠を調べよう」
夫と息子は、探偵ごっこにノリノリだった。
私もホっとした。
「なんかお腹すいたな」
と、夫は言った。
「僕も」
と息子も言った。
「じゃあ深夜だけど、ダイエットには悪いけど、なんかお夜食べちゃおうか?
でも重いものはだめよ。
フルーツにしときましょ」

私はキッチンに立った。
久しぶりに果物を切ろうと思った。
元来、果物を剥くのが大嫌いな私だった。
だから、家族にはいつもみかんや、ぶどうや、いちごなど、剥かないでいいものを与えていた。
息子はりんごが大好きだけど、皮を剥かずに丸ごと食べるのが好きだったので、大丈夫だった。
でも今日は、夫もいるし、ちゃんとりんごを剥こうと思った。
私は、果物用の小型の包丁を出そうと思った。
しかし、フルーツナイフはなかった。
探したが見つからなかった。
しょうがないので、普通の包丁で私は、りんごを剥いた。
しかし、親子三人で楽しくお夜食を食べているとき、団らんは中断された。
突然、家の電話が鳴り響いたのだ。
私たち三人は驚いて、凍りつき、数秒、電話を見つめ、音をきいた。
電話機のそばにいた私は、夫と息子の顔を代わる代わる見た。
夫は、無言のまま、私に向かって、「受話器を取れ」というようなジェスチャーをした。
息子は、大きく頷いた。
それが、よくテレビで見る刑事たちの仕草に似てて、私は少しおかしくなってしまった。
私は受話器を取った。
保育園時代からのつきあいのママ友だった。
「深夜にごめんなさい。
よく起きてたわね?」
「え、ええ?何?」
親しい人の声をきいて、少しホッとしつつも、何事か?とも思った。
ママ友は言った。
「こんな時間になんだと思ったんだけど。
スマホにLINEしてもメールしても電話しても、あなた全然出てくれないから、すぐに教えた方がいいと思って、おうちに電話させてみもらったの」
「何?」
「あなたと友野夫婦の三角関係のデマ情報がネット上に流れているわよ」
「は?」
「はっきりと名前は出ていないけど、あなたのイニシャルや、あなたの経歴や職業が出ているわ。
”殺人事件の被害者の友野さんと不倫関係にあったパート社員の女”ということで」
次回に続く
➡パパ友殺人事件⑤ ⑥ ⑦
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