パパ友殺人事件③
パパ友の不倫相手に会いに行く

これまでの話はこちら➡パパ友殺人事件① ②
友野さんというパパ友が亡くなった。
彼はなぜか私の名刺を手で握りつぶして死んでいた。
どうも私は、友野さんのママからも、警察からも疑われているようだった。
友野パパが死んだとき、私は会社の上司と一緒にラブホテルにいたので、自分のアリバイを説明することができなかった。
しょうがない。
私は思い切って、友野パパとダブル不倫をしていた女をたずねることにした。
何かわかるかもしれない。
以前に、友野ママにパパの浮気の話を相談されたときに聞いていた。
「浮気相手の女は、北町ファクトリーに勤めている、”ひよ鳥ひなこ”っていう、ふざけた名前の女よ」
北町ファクトリーは私の会社とも昔付き合いがあったし、”ひよ鳥ひなこ”もインパクトのある名前だったので、私は友野ママの言ったこの話をよく覚えていた。
******
私は、パートの仕事をさぼって、会社の営業車で北町ファクトリーに向かった。
北町ファクトリーで、”ひよ鳥ひなこ”さんには、あっさり会うことが出来た。
会社の受付まで出て来たひよ鳥ひなこは、小さな声で私にこう言った。
「なんでも話します。
ただ、今は仕事中です。
職場では勘弁してください。
どうでしょう?
今夜、お会いできませんか?」
この人が思ったよりも協力的だったので、私は拍子抜けした。
私は、一度夕方家に帰って息子の夕飯を作ったあと、夫が帰るのを待ってから、出かけた。
******
ひよ鳥ひなことは、夜遅くにファミレスで会うことを約束していた。
そこに到着してみると、なんと彼女は、自分の旦那さんも連れて来ていた。
私が席に座るやいなや、ひよ鳥ひなこの旦那さんは、
「あなたは、友野さんの奥様のご親友で、うちの妻の恥ずべき行いについての相談を受けていたんですね?」
と、私に向かって言った。
「はい」
と私は答えた。
そこでひよ鳥ひなこは、申し訳なさそうに、恥ずかしそうに、深々と頭を下げた。
昼間にファクトリーで会ったときも思ったけど、なんか、想像していた女と違うな?
印象がいい女性だな。
ダブル不倫をする女なんて、どんな図々しい人なのかと思ったけど。
この人、協力的だし、なんかわきまえている感じだし?
そこまで考えてから、私は、ハッとした。
(あ!自分も”ダブル不倫してる女”だったわ!
自分のこと棚に上げてしまった)

ひよ鳥ひなこの旦那さんは、私に向かって、
「それで、あなたは、ひなこに何を聞きたいのですか?
警察の人と同じ質問かな?」
と言った。
「警察にも話したのですが、正直言って、友野さん夫婦とのあれこれは、気がぬけたというか何というか」
「あれこれとは?」
と私はたずねた。
「四者会談ですよ」
と、ひなこさんの旦那さんは言った。
「友野さんの奥さんが、ある日、旦那さんとうちのひなことの不貞に気がつきました。
そこで、私も呼び出されて、四人で話しをしたのです」
と、旦那は続けた。
私は、頷いた。
「ああ。
その四者会談の話は、私も友野さんの奥さんからきいてますよ」
ひよ鳥ひなこの旦那は、語った。
「私は、びっくりしました。
突然、会ったこともない友野さんの奥さんから私に電話がかかってきたのです。
『あなたの奥さんは、私の夫と浮気をしていますよ』と。
私は、最初は悪戯電話かと思いました。
しかし、その頃、妻の帰りが遅いことが多かったので、もしかしたら?とも思いました。
それで、私がひなこに確認したところ、罪を認めました。
私は、ひなこも許せなかったけど、友野さんの旦那さんに対しても激しい怒りを覚えました。
ぜひ彼に会って、言い訳や謝罪の言葉をききたいと思いました。
それで四人で会いました。
その席では、友野さんの旦那さんもひなこも頭を下げて、鎮痛な面もちで反省と謝罪の言葉を並べました。
二人は、今後は二度と会わないと誓いました。
友野さんの奥さんは、少し溜飲を下げたようでした。
彼女は、少し力がぬけたように、『ふう~』と大きな溜息をつきました。
その様子を見て、下手人の旦那さんもひなこも、ホッとした顔になりやがった。
奥さんに許されたと思ったのでしょう。
しかしその姿を見て、私は、また怒りがこみあげてきました。
『ごめんで済めば、警察はいらないだろ!』
そんな言葉を私は叫んでしまいました。
そして、二人をののしってしまいました。
怒り狂う私に、友野さんの旦那さんは、言いました。
『も、申し訳ありません。
ど、どうしたら許してくださるでしょうか?』
そして、
『慰謝料とか・・・・・・』
などとほざいたので、私はまたカッとして、怒鳴りました。
『馬鹿にするな!!
金で解決する問題じゃないだろう?!』
自分でどういうことをしたかわかっているのか?
もう夫婦の間の信頼は、失われてしまったんだぞ?
自分たちがどれだけのことをしたかわかっているのか?
そんな風に私は自分の気持ちを訴えました。」
ひなこさんは、辛そうに顔を両手で覆った。
絶賛不倫中だった私も、何だか自分も責められているような気がして、思わずつられて両手で顔を覆いそうになった。

ひよ鳥ひなこさんの旦那さんの話は続いた。
「驚いたことに、そこで友野さんの奥さんが二人を庇いだしました。
彼女は私に言いました。
『二人とも反省しているみたいなので、もう許してやりませんか?』
え?私は信じられませんでしたよ。
友野さんの奥さんいわく、悪いことをしても、それがすぐにバレてしまい、速攻で反省するようなところも含めて、自分の旦那が好きなんですって。
『私はもう許します』
と、奥さんは言ったのです。
私は、友野さんの奥さんと一緒に、二人をつるし上げようと思っていたのに!
友野さんの奥さんは、すっかり二人を許すモードになっていました。
そして奥さんは、私に言いました。
『私もそうなんですが、ひよ鳥さんも離婚をする気まではないんでしょう?
だったら、もうなんとか二人を許して、明日から夫婦で力を合わせて一生懸命生きてゆくしかないじゃないですか?』
肩透かしです。
四者会談の場では、私だけが被害を訴えている者。
怒り狂っているのは私だけ。
あとの3人の言っていることの方が正しいみたいな雰囲気になってしまったんですよ!」
そこまで話して、ひよ鳥ひなこさんの旦那さんは、やれやれというような呆れたようなゼスチャーをした。
ひなこさんは、うつむいていた。
私は驚いた。
四者会談がそんな感じだとは想像していなかったので。
ひよ鳥さんの旦那さんは続けた。
「それなのに、今回、友野の旦那が不審死をしたからって、警察に私たちが疑われて!
友野の旦那が亡くなった時間に何をしていたか、どこにいたかしつこく聞かれて。
あの奥さんが、私たち夫婦のことを警察に話したのだろうか?
浮気問題については、私だって被害者なのに!
ひなこだって、もうすっかり反省しているというのに!
何回も傷口をほじくられて、傷つけられている気分だよ」
ここで、ひなこさんは、顔を上げて私に向かって言った。
「あなたは友野さんの奥さんの親友なんでしょ?
わかってください。
わかってください。
彼女に伝えてください。
私たちは何もしてません。
私は、友野さんには本当に何か月も会っていません」
ひなこさんは泣きそうになっていた。
「警察は、詳しいことは教えてくれないで、ただ一方的に私の話について、それは本当か?と責めるだけです。
でも、私はその日は会社を休んで、家にずっといたのです。
自分のアリバイを証明できないのです」
この人もそうなのか。
私と同じくアリバイがないのか。
いや、違った!
私にはアリバイがあったんだった。
ただ、私はそれを人に言えないだけだった。

旦那さんは言った。
「私もひなこも滅多に仕事を休んだこともないのに。
あの日は玄関のドアが突然壊れてしまって、締まらなくなってしまい、修理屋さんが来てくれるまではどちらかが家に残らなくてはならなかったんです。
それで、ひなこに家にいてもらったんだ。
よりによってそれが、友野さんの亡くなった日だったとは」
ひなこさんは、
「運が悪かったんです。
会社の人にも驚かれました。
私が急に会社を休むことなんてまずないので。
もしかして警察が会社にも事情を聴きに来ていたら、私はみんなにも変な目で見られているかもしれません。
更に今日は、あなた様が急に会社にたずねてくるし。
突然、うちの会社の受付に押しかけて来るし」
と、うったえた。
「あ、そ、それはごめんなさい。
す、すいませんでした」
と私は謝罪した。
私は考えた。
この人の言っていることは本当なような気がする。
「朝、ドアの修理屋さんに電話して、来てくれたのは午後3時でした。
で、あっという間に修理してくださって、修理屋さんはすぐに帰ってしまいました。
でも、そんな時間から会社に行く気にもなれず、私はその後、家にずっと一人です」
「でも友野さんが亡くなったのはあの日の夕方でしょ?
3時に修理屋さんと会っていたことが証明されれば、大丈夫なんじゃないですか?」
と私が言うと、ひよ鳥夫妻は首を振った。
旦那さんは言った。
「これがまた運が悪いことに、私たちの家は、あそこのすぐそばなんですよ。
あそこは、うちからバスの停留所にして2、3個先です。
もしひなこが3時に家を飛び出せば、あそこにすぐにたどり着けてしまう」
「え?」
あそこってどこ?
私は、友野さんの亡くなった場所については、警察から教えられてなかった。
この夫婦は教えられていたのか?
ひよ鳥さん夫婦は言った。
「友野さんが亡くなったのって、南町のラブホ街なんでしょ?」
「あそこって、我が家からすぐなんですよね」

やばい。
まずい。
ひよ鳥ひなこ夫妻と話せて、私が警察からきいてなかった情報を得られたのはよかったことだけど。
友野パパはなんと、南町のラブホ街で亡くなったと?
まさにそのときに、私と上司がいたラブホ街で?
私は腹をくくった。
次の日、私は、営業車で会社に向かった。不倫相手の上司に会いに行った。
普段は、パート営業社員の私は、家から会社の駐車場に直行し、そこから営業に出かける。
帰りも会社に寄らずに家に帰る。
仕事の報告はメールや、システムを使って行う。
会社に行くのは2週間に一回くらいだった。
なのに、突然私が会社に来たので上司は驚いた。
私を廊下に連れて行きながら、
「どうしたんだよ?突然?
話があるなら電話くれればよかったのに?」
と、小さな声で上司は言った。
「電話では話せないような、非常に重要な相談があるの」
上司は、
「じゃあいつものホテルで待ってて。
4時でいい?」
と言った。
「あのね、そんな場合じゃないの!!」
ここで私は少し大きな声を出してしまった。
そのとき、複数の正社員たちが通りがかり、驚いた顔で私たちの方を見た。
私が上司に向かってタメ口で話しているところを見られてしまった。
上司は、一瞬、あせった表情になった。
が、すぐに大きな声で芝居を始めた。
「わかった、わかった、わかりましたよ。
得意先に同行すればいいんでしょ?
そんなに怒らないでくださいよ」
私も、慌ててその上司の芝居に合わせた。
「お願いしますよ。
〇●商事さんが、たまには部長に顔を出させろってうるさくってしょうがないんですよ。
部長が新人の頃には面倒見てやったのに、出世した途端に一度も顔を見せないって怒ってて」
私を含めて、パートの営業の社員たちは、みんな家庭持ち、ママさん、
立派な旦那を持った女性たちだった。
なので、部長くらいの立場の人に対して、パートさんが生意気な口をきくのは、うちの会社では結構あるあるだった。
一瞬足を止めた正社員たちは、少しだけ笑いをかみ殺しながらも、何事もなかったように私たちの横を通り過ぎて行った。
こうして、私と上司は、誰にも怪しまれることなく二人だけで会社を出ることに成功した。
適当にそこらへんの道路を走らせながら、営業車の中で私は上司に切り出した。
「私の息子の友達のお父さんが不審死をした話は、チラッとしたわよね?」
「ああ。
君の仲がよかったパパ友だろ。
以前に浮気して奥さんにばれた人だろ?
その人の不審死が、一体どうしたんだい?」
と上司は助手席で言った。
私は、営業車を適当に走らせながら、自分の今の状況を上司に話した。
「警察から、その人が亡くなった時間の私のアリバイを聞かれて困っているの。
私が疑われているの」
「え?」
上司は助手席で驚いた。
「あのね。
その人が亡くなった時間に、私はあなたと南町のラブホにいたのよ。
でもそれが言えなくって、私は警察からも奥さんからも疑われてるの。
もしホテルであなたと一緒にいたことを、あなたが証言してくれれば、私の無実は証明されるの。
そうしてもらってもいい?」
上司はたじろぎながら言った。
「ど、どこかに車停めて」
私が営業車を道路脇に停車させると、上司は助手席で土下座せんばかりの姿勢になり、頭を下げて、必死にうったえた。
「それは無理だ!!ごめん!
頼む、勘弁だ。
俺が君とラブホテルにいたことは、絶対に話せない。
なんとか自力でごまかしてくれ」
次回に続く
➡パパ友殺人事件④ ⑤ ⑥ ⑦

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