パパ友殺人事件①
パパ友が亡くなった

パパ友が亡くなった。
よくしてくださったパパ友だった。
友野さん夫婦のお子さんたちと私の子供は、同じスポーツチームに所属していた。
少し大きな大会で優勝したこともある我が子供たちのチームは、その親御さんもみんな熱心だった。
毎週土日の練習日には、交代で親たちはお手伝いに参加したし、どこかで試合があれば足を運んで応援にも行った。
そんなスポーツチームに関わる親は、圧倒的にママさんの方が多かったけど、熱心なパパさんも数人ほどいた。
友野さんのパパは、子供の教育に熱心な人で、毎回、練習や試合に顔を見せていたパパ友の一人だった。
特別に大きな試合しか見に行かないうちの夫とは大違いだった。
いつもは練習にも参加しないし、何も協力しないくせに、大きな大会の、相手チームが有名なときの試合だけ見に来る私の夫だった。
夫がたまに子供の試合を見に来たときに、友野さん夫婦を紹介した。
「こちらいつもお世話になっている友野君のお父さんとお母さんよ」
「どうも初めまして。
妻からお二人のお話はいつもうかがっています。
いつも大変お世話になってます」
と夫は挨拶をし、私たちは友野夫婦の隣に座った。
最初は、友野パパと夫は、自己紹介的な話や世間話をしていた。
会社の話や、時勢の話や。
そして子供たちがグランドに出て来ると、友野パパはそれぞれの子の得意技や持ち味を夫に説明してくれた。
うちの子のことも褒めてくれた。
「みっちゃん(うちの子)は、なんたってエースだからねえ!」
「そんなそんな。
うちの子は一郎君(友野さんちの長男)を尊敬してますよ。
いつも一郎君がどうしたとか、こうしたとか、話をしてますよ」
と夫は言った。
私と友野ママは、「ドキドキするね~。緊張するねえ~」「どうなるかしらねえ。楽しみねえ」などとテンション高めに興奮しながらおしゃべりをしていた。
試合は、圧勝だった。
試合の途中から私たちはみんな、すっかりお気楽安心モードになってしまった。
途中から真剣に試合を追うのをやめて、私と友野夫婦は、スポーツチームの子供たちの面白エピソードや、コーチや監督を少し揶揄した面白話を初めてしまった。
内輪話で、三人で大いに盛り上がった。
夫は話について来れずに、途中から無口になった。

夫が土日に自動車を使うことが多いため、私は車を出せずに、よく友野さんのワゴン車に乗せてもらっていた。
友野さん夫婦は、お子さん二人と、私と私の子供をワゴン車に乗せて、よく遠征先まで連れて行ってくれた。
子供たちが監督やコーチと行動をして、親とは別行動のときは、親だけで試合会場に行くこともあった。
そういうときは、友野さんのワゴン車は、友野さん夫婦と私の三人乗りだ。
「いつもいつも、車に乗せていただいてすみません」
と私が言うと、友野ママは、
「だって、私だちだけで車に乗るのも、あなたたちを乗せるのも一緒でしょ?
ついでなんだから。
気にしないでよ」
と、言ってくださった。
友野パパも言ってくださった。
「なあに。
みっちゃんは、うちのチームを引っ張ってくれる選手だ。
みっちゃんと、みっちゃんママの役に立てたら俺たちも嬉しいよ」
何度か車に乗せていただいたあと、私は友野夫婦にガソリン代をお渡ししようとした。
しかし、そのときでも、その後もいつでも、ガソリン代はなかなか受け取ってくれなかった。
遠征でかなり遠いところに行ったときだけは、200円を受け取ってくださっただけだった。
そんな風によくしてもらったご夫婦だった。
スポーツチームとは別に、学校の行事で一緒になったときは、私は帰り道に友野ママを誘って、よく一緒にお茶をした。
そのときは、ご馳走させてもらおうと思って。
でも、友野ママは絶対に割り勘を主張した。
「やめてよ、そういうの。
こっちからみっちゃんママを誘いづらくなっちゃうじゃない!」
優しい人だった。
そして、友野ママは、おしゃべりで、なんでも話してくれちゃう人だった。
学校の先生の悪口や噂話も好きだったし、スポーツチームの誰それ君のママが気に入らないなどの話をよく私にしてきた。
彼女は、話術が豊かで、悪口でも面白おかしく描写して話してくれる。
先生の情報やママ友の情報に疎い私は、面白がりながらも、でもあまり悪口に同調しないよう、聞き役、笑い役に徹していた。
しかし、あるとき、友野ママは驚くことを言ってきた。
用事で学校に行っての帰り道だった。
5人のママ友と一緒にファミレスでお茶をしたあとだった。
他の人たちが帰ったあと、友野ママと私だけがファミレスに残った。

みんながファミレスの出口を出てゆくのを見届けたあと、友野ママは私に言った。
「みっちゃんママ、聞いてよ。
みんなの前では話せなかったんだけどさ。
ずっと話したかったんだけどさ」
私は、今度はどんな面白い陰口がきけるかと思い、
「うふふ。
なになに〜?」
と言った。
しかし、次に友野ママは驚くことを口にした。
「あのね。
パパ(友野さんは旦那さんをそう呼ぶ)が浮気してたの」
私は、なんと言っていいのかわからなかった。
ええ?そんなこと私に言っちゃっていいの?
だって、私は友野パパとも、知り合いなのよ。
夫婦の問題を私に話しちゃうなんていいの?
でも彼女のいつもの明るい顔とは少し違った表情を見ると、
(せっぱつまってるのかな?
誰かに気持ちを吐き出さないと我慢できないくらい悩んでしまっているのかな)
と思った。
友野ママの話は、こうだった。
友野パパの帰りが遅い日が続いたので、何気なく冗談で、
「あなた、浮気でもしてるの?」
と言ってみたそうだ。
すると、友野パパは急に、どさっと土下座体勢になったそうだ。
「すいません!もう二度としません!」
友野パパは、責めてもいないのに、勝手にスルスルと自供を始めたという。
浮気相手は、短期の仕事で知り合った女性だという。
向こうも家庭持ちの若い女性だそうだ。
でも、もうすぐその短期の仕事のプロジェクトは終わるので、もう二度とその女性とは会わない!と、友野パパは宣言したそうだ。
私は少しホッとした。
なんだ、もう終わった話か。
でも友野ママは言った。
「もう二度としないつもりなら、私には言わないでほしかったな。
浮気なんてしたことがないって、嘘でもいいから言い通してほしかった」
まあ確かに。
そういう気持ちもわからないでもない。
しかし、人のよい友野パパらしいと私は思った。
ウソをつけずに、すぐに謝罪しちゃうなんて。
「私は傷ついた。
許せなかった。
我慢できなかった」
と、友野ママは言った。
話の続きがあった。
気持ちを抑えられなかった友野ママは、なんと浮気相手の女性を呼びつけたという。
友野パパも、相手のご主人も同席で!
そして、加害者二人に謝らせたんだという。
その行動力に少し驚いたけど、彼女の抑えられなかった気持ちを思えば、わからなくもない。
私は、
「そ、そうなんだ。
相手のご主人にも暴露してやったのね?
それで、あなたも少しは気が収まった?」
と、たずねた。
「ええ少しだけはね」
と、友野ママは答えた。

そんなことが数カ月前にあった。
その後は、しばらくは友野ご夫婦はそろっては、私の前には姿を見せなかった。
どちらか一人しか、子供たちの練習にも応援にも来なかった。
やはりこの頃は、二人は険悪な状況だったのだろうか?
友野ママはあるとき電話でこう言った。
「みっちゃんママ。
あなた、運転はできるんでしょ?
仕事ではいつも運転してるんでしょ?
うちのワゴンも運転できる?」
「多分できます。
おたくのと同じ車種も運転したことあるよ」
と私は答えた。
「じゃあ、来週の試合は、うちのワゴン車をあなたが運転して子供たちを連れてってくれない?
うちのパパは行けないのよ」
友野パパ抜きで、私と友野ママは、ワゴン車に子供たちを乗せて遠くの試合会場に行った。
他人様の車を運転するのは緊張したが、私は頑張った。
次のときは、友野ママ抜きだった。
「今度の試合は私行けないから、パパが一郎と二郎(友野さんのお子さん)をつれて、みっちゃんちに迎えに行くよ。
朝8時ね?いい」
と、友野ママから電話が来た。
私は、友野ママ抜きで、友野パパと子供たちと一緒に試合会場に向かった。
帰りは、子供たちは別行動だったので、友野パパと私は二人だけでワゴン車で帰って来た。
ワゴン車の中で、友野パパと二人だけの空間は、緊張した。
今までは気さくにお話ができたが、このとき私は緊張した。
(まさか、パパは、奥さんが私に浮気の相談をしているとは思ってないだろう?
それを悟られないようにしないと!)
そう考えて、いつもより楽しく、明るく、くだらない話を一生懸命盛り上げることに、私は努めた。
しかしその後は、ご夫婦はまた二人揃って、私の前に姿を現すようになった。
夫婦で楽しそうに話しながら、私の前に登場した。
このとき、友野さん夫婦は完全に仲直りしたように私には見えた。
そして今日、突然、友野パパが亡くなったというニュースが入って来た。

その前の日の午後、私は、自分の勤め先の上司と一緒にラブホテルにいた。
この上司とは、何度かセックスをしたことがあった。
いつも昼間のラブホだ。
私は、週に3回だけ、AM10時~PM3時までだけパート社員として、車に乗っての営業の仕事をしていた。
この日の午後も私の勤務時間が終わったあと、私と上司は、私の営業担当エリアの繁華街のラブホテルで落ち合った。
上司は正社員だ。
うちの会社の正社員の勤務時間は、AM9時~PM5時半だ。
でも上司は、本来の勤務時間のはずの時間に外出しては、私との逢瀬を繰り返していた。
******
上司との情事のあと、私は服を着ながら、友野夫婦の話をした。
「そう言えば、この前ね、パパ友が浮気したのが発覚したのよ」
私の話を聞いた後に上司は言った。
「うわ。
それは怖いなあ。
浮気した二人と、浮気された二人の四者対談かあ~」
そして上司は私にキスをしながら言った。
「僕たちはそんなことないように上手にやろうね?」
友野パパの死をきいたのは、私と上司がそんな話をしていた次の日だった。
*********
スポーツチームの電話の連絡網と、学校からのメールの連絡網と、ママ友たちのLINE網の3パターンから、私は友野パパの死のニュースをきいた。
保育園のころからの付き合いのあるママ友からは電話があった。
「ねえ、みっちゃんママ、きいた?」
「うん。驚いた」
「あなたは、友野さんとも仲良かったからショックよね」
「うん。
あんなに元気だったのに。
まだ若いのに。
どうして?
死因は何?
ご病気?」
「わからないわ。
私もそこまでは、きていないから」
私はママ友にきいた。
「ねえ、今、友野ママにお電話してもいいと思う?
今はきっと大変だから、電話しない方がいいと思う?」
「そうねえ。
今は多分バタバタなさっていると思うから、電話は辞めておいた方がいいかもね。
LINEか何かで気持ちを伝えておけばどうかしら?」

でも私は、パートの合間に仕事をさぼって、会社の営業車で友野さんの家に走ってしまった。
友野ママが心配だったから。
声をかけることはできないかもしれないけど。
私は車を停めて、少し遠くから友野家を見た。
そのときちょうど、玄関から親戚の方らしき人を送り出して来る友野ママが出て来た。
いつも綺麗なお化粧をしていたのに、そのときの友野ママはスッピンで、憔悴しきった顔をしていた。
友野ママは私に気づいたようだった。
友野ママは、疲れた顔で私を数秒見つめたあと、会釈をした。
私も深く頷いた。
(大丈夫?お気の毒に。頑張ってね)という気持ちを込めて。
そして、友野ママは再びおうちの中に戻って行った。
お話をすることはできなかった。
友野パパが何の病気?事故?で亡くなったのかはわからなかった。
********
しかし、次の日に私は突然、ママ友たちのどなたよりも早く、友野パパの死因を知ることになる。
何故なら警察が突然うちに来たからだった。
「友野さんが亡くなられた●月〇日、×時ころ、あなたはどこにいらっしゃいましたか?」
次回に続く
➡パパ友殺人事件② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦
***********
〈最新ページに行く〉
〈索引ページに行く〉
〈女性の特徴別検索に行く〉
↓見てほしい全記事の題名!(しかし・・・注意・ちょっと開くまで時間がかかります!!)
全記事リスト