まとわりついてごめんなさい
40分のデート

好きな人がいたのですが、なかなか好きって言ってくれなくて。
まあ、当たり前なんですが。
そういうことしちゃいけない人だったんで。
地方に赴任していたときの話です。
私は、よく仕事を遅くまでやってた。
そこでは、各フロアの最終退出者がフロアごとの鍵をしめることいなっていたので、みんな夜遅い時間になると声を掛け合って帰る。
フロアの遠いところから、別の部署の人がこっちに歩いてくる。
『私さん。僕たち、もう帰るので鍵しめるのよろしくね』
『はーいお疲れ様でした』
それからしばらくしてから、さあ私も帰ろうかなと思って見渡すともう誰もいない。
でも、フロアがコの字に曲がっていたので、曲がってみないとあっち側に人がいるかどうかわからない。
歩いて行ってコの字の角を曲がらなければならない。
角に向かって歩いてゆく。私は緊張して歩いてゆく。
角に近づいてゆくときドキドキする。
角を曲がる瞬間、心臓がマックスに破裂しそうになる。
角を曲がると遠くあっちのほうに。
いた!
あの人がいた。
やっぱり今日もいた。
私は喜びの笑いを抑えられずに(たぶんすっごいニヤニヤしてた)その人に近づく。
『お疲れ様です。私そろそろ帰るのであとよろしくお願いします』
・・・・というセリフを言いに行くのだが、いつもそのあとの言葉を待っていた。
『帰るの?僕も帰るから待って』
いっしょに鍵をしめて一階の管理室に鍵を渡す。
で、地下に下りながら『車で送ってくよ』と彼に言われる。
その言葉をいつも待っていました。
そういうときは、ちょっとしたドライブデート気分なのです。
でも、そのドライブデートで全然、何かが進展することはなかったのです。
車だからさあ、お酒も飲めないわけだし。
ご飯を食べようって送ってもらう途中でご飯を食べることはあったけど、
私、そのころ、ダイエットが気になってときどき今日は食べないって言っちゃったり。
・・・ていうか進展しないことにちょっとムカついてて、
ご飯誘われても、私、全然、喜んでないよってフリをときどきしてみたりしてる部分もあったのかな。
車じゃなくて、誘ってもらうところがご飯じゃなくて、お酒飲むとこだったらよかったのにな~。
お酒飲むとこなら、ゆっくりおしゃべりしたり、彼の気持ちもゆるんでいろいろできたりしたのかもしれないのに。
でも、ダメか~。
そもそも車がなかったらいろいろおしゃべりしたり仲良くならなかったもんな。
車で送ってもらう40分くらいは楽しい時間だった。
たぶん、彼も楽しかったと思う。
いつも座りなれた助手席のシートにまるで彼女みたいに座る私。
助手席のシート、自分のためにあるのかと勘違いしちゃうくらい。
助手席がなんかこの前、私がのったときとシートの位置や、ダッシュボードに置いてあったものが全然変わってないみたい。
ある日、失礼なことをきいてしまった。
『この車の助手席って私以外の人がのることあるんですか』
『馬鹿にするなよ』
『・・・・と言ってみたけど、そう言われてみるとしばらく誰ものってないな・・・・・ここ半年は女性は間違いなく乗っていないな』
『半年前には、女性が乗っていたんだ?』
『んー。部長の奥さんのせた』
私はあはははと笑う。
いつも楽しくおしゃべりして送ってもらうだけで、ずっと何も進展しなかったのですが、
あるとき一回だけしてしまいました。
その日は車じゃないです。
オフィスからちょっと離れたところにポツーンとある大きな有名な居酒屋さんに、フロア中の部署がいっしょに、忘年会的な大きな行事で集まったときの帰りでした。
会が終わってお店の外に出ると、みんな三々五々帰ってゆく。
ちょっと繁華街から遠いので呼んでもらったタクシーに乗りあったり、そのまま歩いて帰る人がいたり、もう一件行く相談をしている人たちがいたり、それぞれの人がいろんな動きをしてました。
そのどさくさにまぎれて、私はその人を連れて脱出しました。
『一緒に帰りましょう』と。
で、いつもとおしゃべりしている空間が違うのでテンションも変わってしまった。
密室だとかえって、心をひきしめて真面目な話とか無邪気な話していたけど、解放された外だと何でも口にできた。
これを言うのは最後のときだと思っていた。
もう楽しいドライブデートを手放すときだと思っていた。
でもいいと思った。
『私、もう送ってくれなくていいや』
酔っているので完全にため口。
『んー?』
『その代わりに一回だけセックスしたい。』と私は言いました。
私は楽しかったドライブデートと引き換えに一回、セックスをすることを選んだのです。
それでしちゃったわけですが。
彼がベッドで上にのしかかってくるときに、ゾクゾクして倒れそうになりました。
あ、もう倒れているか。気を失いそうになりました。
ずっと想像、妄想してたことが実現する・・・という嬉しさで。
キスされただけでもう気持ちがマックスです。
私はしがみついて名前を呼んでしまいました。
彼は優しく抱いてくれました。
私の胸をさわってるときも、下のほうを触っているときも、ときどき、キスを繰り返してしてくれる。
触ってもらっているうちに私は絶頂を迎えてしまいました。
『イッちゃった』って私は小さく申告しました。
こんな言葉をこの人に言うことになるとは。
彼はチューッって情熱的にキスしてくれました。
そのあと、彼は私の中に入ってきました。
彼が動くたびに、
こんなことしてる、こんなことしちゃっている~、いいの~?と、私はますます感じてしまいます。
また、声をあげてその人の名前を呼んでしまいます。
すぐにまたイってしまいました。
そのあとも、たくさん私の中で動いてくれたあと彼ははてました。
で、終わったあと
『今まで、まとわりついてごめんなさいね。』と私は言いました。
『いや、まとわりついていたのは自分の方だと思う。まとわりつきたいと思っている』
と彼は言った。これが『好き』というセリフの代わりなのかもしれない。
その言葉はすごく嬉しかったけど、もうこれからは一人で帰る、送ってもらうことはやめるっていいました。
次の夜、遅くなったときに、いつものように角を曲がって、鍵をしめるのを頼んだら、彼も帰るというのでいつものようにいっしょに鍵をしめました。
いっしょにエレベーターに乗って、無言です。
一階で鍵を返して、階段で地下に落りながら、『どうする?送ってく?』と彼はききます。
『やめとくね』
私は地下鉄のあるB1で、彼は駐車場のあるB2まで降りてゆきました。
これ以上は踏み込まないという純愛路線のときの自分の話でした。
純愛って・・・・?いや?一回してますやんか?
そーだね。でもセックス一回までは、したうちに入らないからいいんだよー。
いいでしょー。
だめ?
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