バーに一人でいるイイ女を誘ってセックスする方法~前編~
いつも冒険しない僕らが冒険してみたら

会社から3分ほど歩くと、結構な繁華街でもあり観光地でもある場所がある。
その繁華街の奥に入っていけば、話題の有名店や、名物料理店や、日本でも有数な老舗店などもある。
しかし、うちの会社の人間は、例えば同僚と仕事帰りに飲みに行くときなど、その繁華街の奥までには行かない。
繁華街の入口も入口にある、普通のありふれた居酒屋までしか行かない。
僕も初めて転勤してここに来たときは、観光地の奥まで見に行ったり、繁華街の美味しい店を訪ねたりしたが、それはわずか一週間くらいで飽きた。
うーん。
昔は、もしも繁華街や観光地のそばに自分の家もしくは勤め先があったらどんな気持ちだろう?
どんなに楽しいだろうと思っていたが、そうでもなかった。
みんなもそうみたいで、うちの会社の人間は繁華街の奥や観光地には足を踏み入れず、会社の一番近くにある、特に料理に何の特色もないありふれた居酒屋で済ませる。
他の支社から出張で人が来た場合だけは、有名店に連れて行ってさしあげる。
「ここが有名な●△料理屋さんですか?
わあ!来てみたかったんです。
皆さんは、いつもここでは何を召しあがるんですか?」
などとお相手が言うと、
「うーん。実は、自分、この店に来るの初めてなんで。」
「私も、前の部長の定年祝いのときに一回来たきりで、よくわかんないです」
などと、僕らは答える有様だ。
うちの社員たちのよく行くそのありふれた居酒屋は、ビルの一階にあり、二階にはチェーン店の居酒屋があり、三階にはまた普通っぽい居酒屋が入っていた。
四階より上は事務所だと思っていた。
ある日の終業時刻後、隣の部署のT君が僕に声をかけてきた。
「山本君、まだ仕事終らないの?」
ヘッドハンティングされてきた中途入社組のT君は優秀な人で、僕と同じ年なのに出世していた。
これはT君が飲みに行きたいときのサインだ。
これが来ちゃうと僕は我慢できない。
僕はその日、もう少しだけ仕事をやっつけたかったけど、明日、倍頑張ればいいかな?と思った。
「いいよ。T君。行こっか?」
そのとき僕の前の席のSさんがパソコンから目を上げ、僕たちの方を見た。
T君はSさんにも声をかけた。
「Sさんも、ちょっと行きませんか?」
Sさんは嬉しそうに笑い、机の上に広げた資料を片付けだした。
その後、廊下で会ったよその部のベテラン社員のAさんも誘って僕たちは4人で繁華街の入口にある普通の居酒屋に向かった。
この日は街は大変、混雑していた。
「何でだ?」
仕事はできるが、今だに独身のAさんがそう言った。
「いや、世間は夏休みに入ったからですよ」
と子持ちのSさんが答えた。
「学生がいないから、朝の電車、弱冠空いてましたよね」
とT君が言った。
この日はいつも行く居酒屋も混んでいた。
一階が満席だったので、僕らは二階のチェーン店の居酒屋に行った。
そこでも「少しお待ちください」と言われた。
僕らは三階の居酒屋に向かった。
三階の居酒屋も入れなかった。
僕らはビルのエレベーター前で考え込んだ。
「どうしようか?」
「会社の反対側の”キッチン▲×”に行く?」
「えー?キッチン▲×ってお酒あるんですか?」
「あるよ。ある。夜は洋風居酒屋みたいになるよ。」
などと話した。
我々はどうしても観光地の方には足を踏み入れる気はないらしい。
そのときT君が言った。
「あ!このビル八階にバーがありますよ!」
T君はエレベーター前の各階の案内版を指さした。
知らなかった。気づかなかった。
四階、五階は事務所なので、その上も全部、オフィスっぽい店子かと思っていた。
横着な僕らは、このビルを出ることなく、そのままエレベーターで八階に向かった。
「バーって高くないのかな?」
「うーん?どうだろ?」
八階のバーは少しだけ照明は落としていたが、それほど暗くはなく、それほど豪華っぽくもなく、清潔そうでシンプルで、よい感じだった。
お客さんはチラホラしかいなかった。
四人席もちゃんとあったので僕らはそこに座った。
メニューを見たら、居酒屋よりはそりゃ高いけど、そんなに驚くほどの値段ではなかった。
安いお酒は充分安かった。(”充分安い”という表現もどうかと思うが)
僕らは安いお酒で乾杯をした。
「や。ここ知らなかったな」
「静かだし、落ち着いてゆっくり話ができるね」
「今度からここもアリですね。」
などと僕らは話した。
しばらく談笑したあと、僕はトイレに行きたくなった。
席を立ったときにカウンターに後ろ姿が綺麗な女性が一人で座っているのに気づいた。
白いブラウスに黒いタイトスカートの女だった。
トイレから戻ってくるときに、その女性が僕の方をチラッと見た。
綺麗な色のカクテルを手にした、いいオンナだった。
そして横向きのその人を見たら、綺麗な脚を組んでいることがわかった。
僕はその脚にクラッときた。
僕は自分たちの席に戻ると、声を潜めて皆にきいた。
「バーに一人で来る女ってどういう人なんでしょう?」
「うん?」
そう言って、三人はカウンターの方を見た。
「うーん?」
「チャラチャラしたタイプじゃないね?」
「仕事にも人間関係にも疲れちゃったOLさんが一人でやけ酒?」
と皆は声をひそめて言った。
そのあとも、仕事の愚痴や家庭の愚痴などをネタに笑いながら、僕たちはお酒を飲んだ。
でもときどき、各々がチラチラとカウンターの女性の方を見ていたのを僕は見逃さなかった。
僕らはその日、このバーで結構飲んでしまった。
途中からSさんが酔っぱらって、こんなことを言いだした。
「誰か、あの女性に声かけて来いよ。一緒に飲みませんかってさ」
「やですよ」
「いやです」
僕とT君はそう答えた。
そのとき、何と、Aさんが立ち上がった。
「俺が行ってこよう!」
ええっ?マジですか?
Aさんはスーツのボタンを留め直し、ネクタイをキュッと締め直し、席を立った。
Aさんがカウンターの美人に近づいてゆくのを僕らは見守った。
カウンターにいたバーテンがAさんの動向に気づき、チラッと見た。
あと50センチまでの距離にまで女に近づいたAさんだった。
そのとき、急に女性が自分のバックから携帯を取り出した。
そして綺麗な髪をかきあげながら、携帯を自分の耳に押し当てた。
「もしもし。
あ!そう?
●△まで行けばいいのね?
わかったあ。」
女性は携帯に向かってそんなことを言っていた。
Aさんは撤収した。
女性は携帯をしまうと、立ち上がり、バーテンに向かって
「お会計、お願いします」
と言った。
「待ち合わせだったのかあ~」
「そりゃそうだよな~」
「あんな綺麗な女が一人で飲みに来ないよなあ~」
と僕らは反省?した。

その二週間後、僕は取引先の若い人と会社で仕事の打ち合わせをした。
打ち合わせのあと、取引先は僕に向かって言った。
「山本さん。
■▲×屋って行ったことあります?」
彼はここの繁華街の名店の一つの名前を出して来た。
僕は
「いや。ないです。」
と答えた。
「あのお店すごい美味しいらしいんですよ。
今度行きましょうよ。
私の上司も一緒に。
ご馳走させていただきます」
と取引先は言った。
「そうですねえ~。でもアソコは高いだけで、味はそうでもないって噂ですよ」
と僕は答えた。
「それよりも安くていいバーを見つけたんです。
上司さんはいいです。
あなたと二人で折半でそっちのがいいな。」
と僕はなぜか言ってしまった。
まあ、不要に取引き先に接待され、接待なんかで恩義を着せられるのはお断りだ。
僕はそんなことでは左右されない。
僕の三歳年下のガッツのあるこの若者が好きだから、お取引き先に選んで一緒に仕事しているだけだ。
僕はそのあと、さっそくこの彼を誘い、あの”普通の居酒屋ビルディング”の八階のバーに行ってしまった。
びっくりした。
また八階のバーのカウンターにはあの脚の綺麗なOLがいたのだ。
今日はまたこの前と違うフワフワフリルのついた白いブラウスで、下はまたこの前とは違う、夏らしい明るい色のタイトスカートだった。
手にしているカクテルは鮮やかな青いグラスだった。
でも僕がもっと驚いたのは、彼女の隣にSさんが座っていたことだった。
僕はその日、19時過ぎまで取引先と会議室に一緒にいた。
取引先との打ち合わせのあと、会議室から自分のデスクに戻ってすぐに退社したので、いつも自分の前に座っているSさんの今夜の動向を僕は知らなかった。
Sさんは僕らに気づかなかった。
僕はなるべくカウンターから離れた二人席に取引先の若者を誘導した。
でも、そんなに広くない店なので、そこからもカウンターが見えた。
ボーイが僕らの席に来てオーダーを取っている時、カウンター席の彼女が携帯を耳にしながら立ち上がったのを僕は見た。
僕はメニューを手にしたまま、カウンターの方を見ていた。
ボーイは黙ってそこに立ったまま、いつまでもオーダーしない僕を待っていたようだ。
取引先も黙って僕の様子を見ていたようだった・・・。
僕はメニューを持ったまま、女がSさんに手を振りながら店を去ってゆくのを見届けた。
そこで僕は我に返った。
僕は慌ててメニューに目を戻し、取り繕ってボーイや取引先の若者に向かってニコニコしてしゃべりかけた。
「えっとえっと、この前、このカクテル美味しかったなあ。
あははは。この前、最後に飲んだこのカクテル美味かったんですよ。
ね、ボーイさん!」
******
その2週間後、僕は休日出勤をした。
本当は朝一に会社にゆき午後には仕事を切り上げるつもりだったのに、疲れていた僕は朝起きられなかった。
会社に行ったのはお昼近くだった。
そして思いの他、仕事に時間がかかり、会社を出たのはPM8時だった。
まっすぐ帰ればいいものを僕はまたあの居酒屋のビルの八階のバーに一人で寄ってしまった。
また僕は驚いた。
はい、読者の皆さんのお察しのとおりです。
また脚の綺麗な女はバーのカウンターにいたのだった。
そして今度は僕の隣の部署のT君が、彼女の隣に座っていた。
T君は今日、休日出勤していなかったはず??
わざわざ休日にこの会社のそばのバーにまで来たんか?
僕はこの前と同じ二人席に座ってT君の動向を盗み見た。
T君は名刺を彼女に渡していた。
「まあ!若いのにもう副課長さんなの?」
彼女が高い声を上げた。
そうだ。
T君は僕とは同じ年齢なのに僕よりもずっと出世していた。
少しの間、T君と彼女は笑いながら話していたが、やがて、また突然、携帯を耳にした彼女が席を立った。
彼女は「じゃあ」と言って、T君に手を振りながら去って行った。
T君は一人、カウンターに取り残された。
僕は身を低くして、その30分後にT君が店を出てゆくまでT君の動きを見届けた。
女に振られたからと言って、すぐに店を出るのがT君は恥ずかしかったんだと思う。
一度、トイレに行ったT君に僕の存在を気づかれそうになったときには、僕は慌ててメニューで顔を隠した。
T君にみつからないように、メニューで顔を隠しながら僕は確信した。
「あの女はこのバーのサクラだ!!」
------続く---------------
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