不倫の清算は、魔法を使っても無理らしい①

旦那のフリをして浮気相手にメールをする妻


黒いエロチャイナで脚を広げて座っている
雪の帰り道、道路の脇の植え込みのところで震えている猫を拾った。

怪我をしているようで、最初、私が近づくと猫は片脚をひきずりながら逃げようとした。

片脚から血が出ている。

歩くことも逃げることもできないようで、2歩ほど歩くと猫は、パタンと冷たい道路に倒れた。

一人暮らしの私が、今うちで動物を飼うのは難しい!

でも、とりあえず今はこの猫を助けなきゃ!とりあえず、急いで身体を温めないと!!

私は猫を抱きあげると、自分の暖かい家に連れ帰って介抱した。

一週間もすると猫はすっかり元気になった。

一週間と一日目に私が仕事から家に帰ると、猫は居なかった。

代わりに置き手紙があった。
「さようなら、お世話になりました。
あなたは命の恩人です。
お礼にこれを差し上げます
時間を戻すタイムマシーン・スプレーです
猫」

時間を止めて、時間を戻せるという、魔法のようなスプレー缶を猫は置いていった。

見かけは殺虫剤のような、そのスプレー缶の側面の説明書きを読むと、ワンプッシュすると昨日に戻れるという。

このスプレー缶一本で、累計365日分、時間を取り戻せるという。


******


私は、猫にもらったスプレーを何に使うか決めていた。

数年前に大企業をやめた私は、ここしばらくはバイトをして暮らしていた。

しかし、そんな私に最近、二つのよさそうな会社からオファーがあったのだ。

一つは、以前勤めていた大企業で一緒だった玉川さんという男性が作った会社からだ。

昔、玉川さんには私は少しだけ憧れていた。
玉川さんは素敵な独身男性だった。

玉川さんは私より先に大企業をやめて、自分で起業していた。

ここ数年で会社が軌道に乗ったので、人を増やしたいという。

それで私のことを思い出し、私が今ブラブラしていることを知り、声をかけてくださったのだという。

もうひとつは、ハヤシさんという私の学生時代の女の先輩が勤めている会社だった。

ハヤシさんは今までずっと営業部門の課長だったのに、何でもこのたび人事部門の課長になったそうで。

会社で中途採用の人材を探しているときに、ふと私を思い出して、声をかけてくれたという。

玉川さんの会社と、ハヤシさんの会社、どちらがいいのかわからない。
どっちの会社にもよいところはあるし、どっちの会社にも欠点はあった。

私は迷っていた。

でも、猫に時間を戻すスプレーをもらったおかげで、もう迷う必要はない!

私はこうすることにした。

とりあえず玉川さんの会社に入って、1年くらい仕事をやってみて、そのときにどうもなんか違うと思ったら、猫にもらったスプレーで1年分時間を戻して、ハヤシさんの会社に入りなおせばいいのだ。

私はいったん、ハヤシさんにお断りの電話をして、玉川さんの会社に入社することにした。

*****

そんなとき、(私の元を猫が去った数日後だったが)、以前、勤めていた大企業での私の上司だった権田さんからメールがあった。

「元気?どうしているかと思って」

昔、権田さんと私は不倫関係にあった。

でもとっくに別れているのに何だろう?

「元気よ。何?また、ご家庭でなんかあったの?ふふ」
と私は返信した。

昔は権田さんには奥さんの愚痴をよくきいていたものだから。

「いや、別に。
昨日、君のことを思い出しちゃって、ふと」
と権田さんは書いてきた。

「へえ。私の身体を思い出してオナニーでもした?」
と私はふざけて返した。

その一週間後の夜だった。

また権田さんからメールがあった。
「明日、東京まで行くんだ。
明日の夜、会えないかな?」

玉川さんの会社に入社が決まった私はご機嫌だったので、余裕で権田さんに返信した。

「急にどうしたの?いいけど、どこで会うの?」

権田さんから
「いつか泊まった●△ホテルって覚えている?
あそこの一階のラウンジで待ち合わせしない?
夜8時ころ、来れる?」

そう、いつも逢瀬はラブホテルだったのに、私の誕生日やクリスマスだけは、その一流の●△ホテルで、権田さんは私を抱いた。

「いいわよ」
と私は返信した。

ま、権田さんに会ってみて、ご飯食べて世間話してもいいし、何かするかどうするかは会ったときの気分にすることにする。

私はそう決めて、●△ホテルに向かった。

●△ホテルのラウンジのソファに座っていると、中年の小奇麗な女性が私に近づいてきた。

その女性は、私の目の前まで来ると立ち止まった。

女性は綺麗なキリッとした顔で、でも口元は微笑みを浮かべていた。

「はじめまして。権田の妻です」

ひええええ!!!!どういうことお??

タンクトップ、短パンで体育座りしている

小奇麗な中年女性、権田さんの妻いわく、こういうことだった。

私と権田さんの不倫はとうの昔に終わっていたというのに、奥様が夫の不貞に気づいたのは、つい最近だったそうだ。

私と権田さんがつきあっていたころ、夫の態度については少しは怪しんではいたそうだ。

それが最近、当時のカードの明細やらを見る機会があり、そして、夫のスマホを盗み見て、私のことがバレたらしい。

今回、奥様は権田さんに成りすましてメールで私に接触してきたようだ。

ホテルのラウンジで奥様を前に固まる私だった。

うわああ!

しょうーがない!!

あれ使うか?!

そう。猫にもらったスプレーで1日時間を戻すぞ!!!

私は奥さんに睨み付けられている中、バックから、猫にもらったスプレー缶を取り出した。

そして、それをワンプッシュした。

赤紫の煙のようなスプレーがホテルのラウンジ中に広がった。


気が付くと、私は自分の家にいた。

スマホを見ると昨日の20時に、戻っていた。

〚猫のスプレーの残量、364日〛

私は、権田さんをよそおった奥様からの『●△ホテルで会おう』というメールに拒絶の返信した。


「ふざけないで。
あなたとは、私はもう一生会いませんから!
そもそも一度も私は権田さんのこと好きでもなかったし!」
と書いて。


ふ~!!!


私はピンチを回避した。

*****
私は●△ホテルで、奥さんに会わなかった。

メールでは、権田さんにはいっぺんの未練もないことを奥様に示したしね、危険を回避したと思った。

しかし回避されていなかった。

その日から、私の携帯に無言の電話がジャンジャンかかってきた。

無言メールもたくさん来た!

それが続いた。

そうか。

一週間前のメール、そもそもアレに返事をしちゃダメだったんだ。
「奥さんと何かあったの?」
とか
「私の身体、思い出して、オナニーしてるの?」
とかそういうの返事しちゃいけなかったんだ?

しょうがない!!

私は猫のスプレーを使って、時間を更に10日ほど前に戻した。

〚猫のスプレーの残量、354日〛

権田さんを装った奥様の最初のメールから、全く無視することにした。

それにも返事しないでいると、無言電話がたくさんかかってきた。

一度だけ、●△ホテルで会おうというメールも来たが、私は無視し続けた。

その後も、無言電話もずっと続いたが、私は無視し続けた。

ふー!
奥さんのせいで、スプレーを無駄使いしちまった!

でも、大丈夫、大丈夫、まだ、猫のスプレーはまだ354日分ある。

そう。

会社のことは、どっちかに入って早めに決断すればよいんだ。

玉川さんの会社に入って、1年は様子見れないけど、どっかでやっぱり玉川さんの会社がイヤになったら、半年後でも10か月後でも、猫のスプレーの残量のあるうちに決断すればいいんだ。

そこから時間を戻して、ハヤシさんの会社に入りなおせばいいんだ!!

------続く------------
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