不倫好き女将のスケベの抑止力

お客様とエッチなことをしないように


全裸で片足を立てて座っている
私は、小さな和食の店をやっています。

近所の会社に勤めるサラリーマンさんたちが、主なお客さんです。

会社帰りに少人数で軽く飲みに来る方もいれば、時には小さな宴会で使ってくださる人たちもいたし、最近では女性のグループも夜ご飯を食べに来てくださることがありました。

その会社のお客さんの中で、私とエッチをしたがる人が二人いました。

お一人はいつも数人の部下の方を連れていらっしゃり、たくさんお金を落としてくれるTさんという方です。

Tさんはお帰りになるときに、お連れさんたちを店から出した後、お会計しながら私に
「もしよかったら電話して」
と言って、電話番号やメールアドレスを小さなメモに書いてこっそり渡してきました。

でも私は、一度もご連絡は差し上げたことはないです。

もうお一人はPさんとおっしゃいますが、いつも仲のよい同僚の方と2人でいらっしゃって、堂々とスケベなことを口にしていらっしゃいました。

私の顔を見ると、そんなに酔っていないときでも
「今日も綺麗だね。
帰りホテル行こう」
とよく言って、同僚の方に
「馬鹿か?!」
と言われて叩かれていました。

また
「この前、会社で健康診断があった。
再検査になっちゃった」
「まあ大変」
「もし余命が短かったらどうしよう」
などどPさんは言うこともありました。

「そしたら死ぬ前に一度だけさせてね。
女将さん!」
とPさんは私に言いました。
「バカなこと言ってんじゃないよ!
すいませんねえ」
と同僚の方は言いました。

ふざけながら、やらしいことを言うPさんでした。

Tさん、Pさん。

私は、このお二人について、ほんの時々は本気で考えてみました。

もしもお二人に応えて、セックスをしてしまったら、そのあと、どうなるのかしら?

最初は楽しいでしょう。

イチャイチャスケベを毎日のようにして。

でもそれが数週間、数カ月たったらどうなるの?

飽きてしまって気まずい別れ?

もしくは、もしも私がはまってしまって、もっと恐ろしいことが待っているとか?
(お二人とも妻帯者なんです)

どちらにしろ、セックスをしてしまったら、会社の帰りに楽しく店に飲みに来てくださるという関係は終わりだと思うわ。

快楽に身を任せた途端に大事なお客様との関係は終わりだと思うわ。
それは残念なことだわ。

別にいいじゃん。それでも。
お客さんが一人減るだけで。
お客さんが束の間の遊び相手に変わるだけ。
新しい御馴染みのお客さんはまた作ればいいんだし。

この世に男は何億いるんだっけ?お客さんも何億もいるのよ。

と、心の中の悪の私が、私をそそのかそうとすることもありましたが。

でも、ダメよと自分を制する私がいました。

私は実は以前に、妻子持ちのお客様とつきあってバレてひどい目にあったことがあったのです。

私が過去にお客様と悪いことをしたときの立場は、雇われた店員でした。
ですのでまだ許されたけど、今責任のある立場で、もしもお客さんと不倫をする女将がいる店なんていう噂がたったら、きっと店が立ち行かなくなり大変なことになってしまいます。


私は、古い下着を着るようにしました。

もう捨てようかと思っていた色褪せたパンツと、ヒモが切れそうになってしまっているブラジャーをするようにしました。
あるいは、寒いとき用のダサいダブダブのベージュの大きなパンツだとかを穿くようにしました。

何故かと言いますと、そういう恰好悪い下着をしていれば、絶対に抑止力になるからです。

エッチの抑止力です。
どんなに私がTさんやPさんの誘いに乗りそうになっても、こんな下着を付けていたら、恥ずかしくてお見せすることはできません。

おかげで、一回Tさんに誘われたときも、自分を阻止できました。

いつものように休日前に部下の方と飲みに来て、いったんお帰りになったあと、Tさんがもう一度、一人で店に戻ってきたたことがありました。

私はもう閉店の準備をしていました。

Tさんは驚いている私に言いました。

「今日、明日、女房がいないんだ。
場所変えて、どこかに行かない?
明日もどこか遊びに行こうよ」

うーん。
私も次の日は休みです。
今日は忙しかった。
その夜はパーッとカラオケにでも行って騒ぎたい気持ちでした。

そしてそのあと、甘い一夜・・・。
明日はお出かけ。いいわあ。


でも・・・。
私は、その日、自分の着ていたかっこ悪い下着のことを思い出して、お断りしました。
「疲れているのでごめんなさい。
また今度ね」

ガッカリしたTさんはお帰りになりました。

危ない。危ない。

もう少しで道を踏み外すところだったわ。
私はホッと胸をなでおろしました。


次にPさんに誘われたときも危なかったです。
「健康診断の再検査の結果が出た」
Pさんはそう言いました。

「手術が必要なことがわかった。
再来月にする。
その前に元気なうちに女将とセックスしたい」
とPさんは私に言いました。

珍しく、その日はPさんはおひとりでした。
同僚の方はいませんでした。
健康診断の結果にかなり本気で落ち込んでいる真面目な顔のPさんでした。

私は思わず、可哀想になってしまい
「いいわよ」
と言いそうになりました。

でも、私は口を開きかけて止まりました。

そうでした。
あれから、私は自分の”抑止力”を増やしたのでした。
恰好悪い下着だけでは、自分が止まらないような気がしたので、私はあれから、腋毛の処理をやめたのです。

顔や腕や脚の産毛の処理は、普段の生活でもきちんとする必要があったので、処理を続けていますが、今私は腋毛をはやしっぱなしです。

これなら、絶対に男と悪いことはできません。

いくらエッチがしたい気分になっても、このみっともない腋を男性にさらすことはできません。
っていうか、この腋を見たら、Pさんも私自身もエッチな気持ちが萎えること確実です。

私は、その日も不倫の危機を乗り切りました。


そんなある日、店に新しいお客さんがやってきました。

Xさんという方で、最近こちらの会社に転勤してきたそうです。

Xさんは見るからにタイプの人でした。
外見も、声も素敵で、私の好みにジャストミートでした。

でもXさんは真面目な人で、私を誘ってくることはありませんでした。

あー危ない。

Xさんにちょっとでも言い寄られたら私、危ないわ。
カタブツそうな人で本当によかったわ。

しかし、Xさんが私の店に通いだして1か月ほどのときでした。

いつも、お連れの人とばかりお話をしていたXさんが、私に親しげにお話をしてくれるようになりました。

Xさんは打ち解けてきたみたいでした。
私に心を許してくださったようでした。
Xさんとお話しするのは楽しく、私はうっとりしてしまいました。

危険だわ。Xさんも妻帯者です。

ダサい下着作戦、腋毛作戦に合わせて、私はある日、小鳥を衝動買いしてしまいました。

何気なくのぞいたペットショップで、きれいなインコを見つけて思わず買ってしまいました。

そのインコを一目で気にいったのは本当ですが、一番の理由は
「このコが居れば、私、毎日、きっと家に真面目に帰れるわ。
Xさんとも遊ばずに、このコと安全に平和に暮らせそうだわ」
ということでした。

そう、真面目な暮らしを続ける誓いを立て、私はインコを手に入れたのでした。

しかし。

全裸で横たわっていてバックはダイヤモンド

ある雪の夜、他にお客さんが一人もいなくて、Xさんが一人でいらしゃったことがありました。

雪がひどくなると天気予報で散々言われていたので、多くの人は早めに家に帰宅したようです。

私は自分のマンションまで歩いてもせいぜい30分なので、電車やタクシーがダメになっても歩いて帰るつもりでした。
バイトのコを帰して、私は一人で店を開けていました。

Xさんは仕事があって、どうしても早めに帰れなかったそうです。
そのうちに雪がひどくなり、電車も運行停止になってしまったそうです。

「お店、何時までやっている?
今日はここで少し飲ませてもらってから、カプセルホテルかどっかに泊ろうと思ってさ」
とXさんは言いました。


Xさんにお酒とお料理を出したあと、私は急いで店の奥に引っ込むと、自分のマンションのお隣さんに電話していました。

お隣さんとはお互い独身の女同士なので、何かあったら助け合うことにしていました。
家の鍵までお互いに預かっていました。

「ピーちゃんの面倒?」

「うん。ごめんなさい。
今日帰れないの。
でもすごく寒いでしょう?
ピーちゃんを一晩、預かってほしいの」

「全然、いいわよ。
うちの暖かい部屋で一晩、鳥籠を預かればいいの?
いいわよ。お安い御用よ」

お隣さんはそう言ってくれました。

そして私はXさんに店のお留守番をしてもらって、吹雪の中を近所のコンビニに走りました。
私はコンビニで腋毛を剃るカミソリと脱毛クリームなどを購入しました。

*****

Xさんと行ったラブホテルでは、部屋に入った途端にXさんに抱きしめられました。
身体をまさぐられ、脱がされそうになりました。

「だめえ!先におフロに入らせてえ」
私はXさんの腕をすり抜けてバスルームに飛び込み、鍵をかけました。

そこで私はダサい下着を急いで脱ぎ、自分のハンドバックに押し込みました。

そしておフロから出るときは、腋毛も綺麗に処理したピカピカの裸体に、バスタオル一枚の姿になり
「うふーん」
とクネクネしながら、色っぽくXさんの前に登場した私でした。

過去の痛い失敗や、スケベの抑止力は何の役に立たないことを私は痛感しました。
本気でスケベがしたいときは、人間はどんなチャンスも逃さないし、どんな手を使っても成し遂げようとするもんなんです。

------終わり-----------

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